囁かれた数字
魔理沙をバンカー25から救出したあと、彼女も治療とリハビリのために入院することとなる、最初は洗脳の後遺症からか悪夢やバンカーでロシア軍将校達から囁かれた言葉・数字が頭に浮かび苦しんでいたものの、ケアを受けることにより回復しつつあった…
月明かりの差す診療テント。静かな夜だった。
護衛艦「きりさめ」の臨時医療班が設営した小さなテントの中、ベッドの上で魔理沙が毛布に包まれていた。瞼は重く、意識はやや朦朧としているが、身体の外傷はない。だが、問題は“心”と“脳”だった。
霊夢はそっと傍らの椅子に腰を下ろし、魔理沙の顔をじっと見つめていた。
「……本当に、大丈夫なの?」
その問いに、魔理沙はまぶたを半分開けて口元を緩めた。
「んあ? あぁ、そうだな……」
数秒の沈黙。霊夢が何か言おうと口を開く前に、魔理沙がポツリと呟いた。
「たまにな……頭の中に、数字が浮かぶんだよ」
「数字……?」
「……91、93、94、97、02、08、14、15、22、25……って感じでさ。何の数字かはわかんねぇけど……ふっと思い出すんだ。夢の中でも、昼寝してても……。何なんだろな、これ」
霊夢は眉をひそめた。
それはただの幻覚か? それとも、誘拐中に埋め込まれた“何か”の痕跡か?
「……その数字、何度も出てくるの?」
「うん。しかも順番はバラバラでな……。でも、決まってこの十個だけだ。やけに印象に残るんだよ。頭の奥に“焼き付いてる”感じがしてな……気味悪いな」
魔理沙がそう言って苦笑する。その口調には、普段の調子が戻ってきているようにも思えたが――霊夢は心の奥で警戒を解けなかった。
(91、93、94、97……? 西暦か? 年号?)
霊夢はその数字の羅列を一度口の中で反芻する。
それは、何かの“出来事”を指しているようにも思える。
もしかしたら、政治的事件、戦争、あるいは……?
魔理沙はあくびをしながら、もう一度言った。
「……でもまぁ、そんなに気にすんなよ。私は私だし、お前の顔見たら何だか落ち着いたしな」
霊夢は微笑むが、手の中に収めたメモ帳には、その数字を無言で書き記していた。
91・93・94・97・02・08・14・15・22・25
(……この数字の意味を、調べなきゃいけない)
やがて診療テントの外から、哨戒部隊の足音が近づいてきた。夜の見回りである。
だが、霊夢の頭の中では、静かに数字が繰り返されていた。
あたかも、それが近い未来を示す“暗号”のように——。