仮面の兵士たちと、揺らぐ護衛線」
「
幻想郷・博麗神社——午後
蝉が鳴き始める夕刻、縁側には魔理沙と霊夢が並んで腰かけていた。その背後では、護衛として配備されたフランス兵たちが会話を交わしていた。朝田三佐とマルク大尉も含め、和やかな空気すら漂っていた。
だが――
ブブッ……ブブブッ。
その空気を切り裂いたのは、マルク大尉の携帯通信機だった。
「マルク大尉、着信です。識別コード:HQ-ALPHA-0025。マクファーレン中将の回線です」
マルク大尉は眉をひそめつつも、応答する。
「こちらマルク。マクファーレン中将、どうされました?」
《……マルクか。地下融合炉施設で問題が発生した。至急、現地を確認して報告してほしい》
「はっ……しかし、私は魔理沙氏の護衛任務中であります」
《すぐに他部隊を送る。君は先に動いてくれ。融合炉へのアクセス制限がかかる前に内部を確認せねばならん》
一瞬、マルクは沈黙した。声に僅かなノイズ。そしてどこか、抑揚が不自然だった。
(……声が、微かに違う?マクファーレン中将にしては、妙に急かしている)
それでも命令は命令だった。マルク大尉は深く頷いた。
「了解。朝田三佐、魔理沙氏の護衛は貴官に任せます」
「了解しました、大尉」
「何かあればすぐに連絡を。……警戒は怠らないでください」
マルク大尉はそのままジープへと乗り込み、急ぎ基地方面へ引き返していった。
魔法の森方面 移動中
プジョーP4が、草木生い茂る林道を進んでいく。運転するのはフランス兵フォルシュ少尉。後部には魔理沙と朝田三佐、残りのフランス兵たちが同乗していた。
「魔理沙氏、魔法の森のどのあたりまで行く予定ですか?」
「ん?あー、“北の断崖”に新しい素材が落ちてるって話があってな。ちょっと見てみようかと」
「なるほど……探索任務、ですか」
朝田三佐は運転席後ろからフランス兵を見つめていた。
その言葉遣いに、どこかぎこちなさを感じていた――“まるで、会話を模倣しているかのように”。
魔理沙は窓の外を見つめながらつぶやいた。
「……風が止んだな」
「え?」
「なんでもない。ただ、妙に静かだと思ってさ」
地下融合炉施設 同時刻
技術者とされていた男が、配管中央部のアクセスパネルを開けると、小型の六角筐体の**“ウイルス型デバイス”**を接続ポートに装着しようとする。
だが――
「――そこまでです」
警報が鳴る寸前、施設管理AIが異常パケットを検知し、即時アクセスを遮断。内部ロックがかかり、男の端末が無力化される。
「くっ……!」
扉が開き、MP(軍警察)とNATO兵が突入してきた。
「その手を離せ!伏せろ!」
「我々は――技術者だ!調査中に起きた誤作動だ!」
「黙れ、施設セキュリティログに全て記録されている。アクセス先が、ロシアの“カットアウト・ノード”に通じていることもな!」
男たちは即座に拘束された。しかし既に、最初の“データパケット”は送信されていた。
アレン少佐、ケース少佐 合同作戦室
「ダメだ……最初のパケットが外部ルートに抜けてる」
「NATOレベル4の防御壁をどうやって……?!」
「カットアウトだ。ロシアが使ってきた、例の“ゴーストサーバ”……直接の送信元を偽装してる。行先は判別できない」
ケース少佐が拳を握りしめた。
「連中はすでに“後半の作戦”に入った……!」
魔法の森 深部・目前
朝田三佐はふと、背後からの無言の視線を感じていた。
(……やはり、何かがおかしい)
「魔理沙さん、少し立ち止まってください」
「ん、どうかした?」
「少し、周囲を確認します」
その瞬間、フランス兵レオナルド中尉が手を背後へ伸ばした。小型拳銃を抜くような動き――
朝田三佐の目が鋭く光る。
「――止まれ!その手を離せ!」
静寂を切り裂く緊張の瞬間が、森を満たしていった――