核と直感、そして疑念」
幻想郷・シエラデルタ基地 地下融合炉施設
コンクリートと鋼鉄に囲まれた地下構造体、冷たい空気の中を複数の技術者たちが静かに歩いていた。彼らは、正式な身分証を携帯し、国際的な研究者らしく慎重に記録をとっていた。
その中の一人――中年の技術者が、融合炉の主配管部に不自然なほど近づき、小型のデバイスのようなものを袖から取り出し、配管の支柱にそっと手を当てた。
その瞬間、施設内の巡回を行っていた幻想郷駐在の警察官が背後から声をかけた。
「――何されてるんです?」
技術者は一瞬、肩を揺らすもすぐに振り返り、柔和な微笑を浮かべて答えた。
「いや…この融合炉に異常がないか調べていてね。仕組みがどうなっているか…我が国では今、深刻なエネルギー問題を抱えていてね」
「エネルギー問題?」
「そう。原子力発電所の建設を検討しているが、周辺国の反発が強い。それに、ウクライナの1986年のこともあるから…まだ“あの影”が拭えていないんだ」
淡々と語る口調だったが、警察官はどこか釈然としなかった。
(何かを“計測”していたような動きだったが…?)
「念のため、監視主任に報告しておきますね。ご協力、よろしくお願いします」
「もちろん。怪しまれるような真似はしていないつもりだが…気を悪くしたなら申し訳ない」
技術者は丁寧に頭を下げた。だがその目の奥には、一瞬だけ冷たい光が走った。
博麗神社・夕刻
縁側で茶を啜っていた魔理沙が、ふと空を見上げた。境内を渡る風が、微かに異なる“匂い”を運んでくる。
「……なあ、霊夢」
「なに?」
「さっき来たフランス兵たち、ちょっと妙じゃなかったか?」
霊夢は湯呑を置いて、片眉を上げた。
「妙?どこが?」
「目だよ。あいつら、人を見る目じゃなかった。獲物を見る目だった。言葉もなんか、張り付けたみたいな敬語だったし…」
「気にしすぎじゃないの?」
「……いや。あたし、戦うやつの目は見慣れてる。ありゃ、間違いなく“戦う準備”をしてる目だ」
霊夢は黙って茶を啜った。
「そういうのって、案外当たるから怖いのよね、あんたの場合」
シエラデルタ基地・司令部
ケース少佐はモニタールームでデータ照合を続けていた。だが手が止まった。
「おい…アレン。これ見ろ」
アレン少佐が背後から覗き込む。映っていたのは、“フランス兵”の一人の過去の映像記録だ。かつて内戦が続いていた某国で民間人への暴行に関与していた兵士の映像。
「これは…!」
「フランス軍の記録にはない。このID、偽造だ」
アレン少佐はすぐに通信機を取り上げた。
「こちらアレン少佐。コードレッドの準備を。魔理沙と霊夢の身辺警護を強化、目標は“偽装フランス兵”の追跡と拘束!」
「了解、全戦力警戒態勢へ――!」