情報戦、そして決意の声
――幻想郷・統合作戦司令室(旧地獄通信施設跡地)
高性能モニターに映し出されたログは、5秒ごとに流れ変わる。
情報班の兵士たちが沈黙の中でキーボードを叩き続けていた。
「奴らのbotから、何者が絡んでいるか探れ!」
マクファーソン准将の声が室内を震わせる。
机の上には、SNS上で爆発的に拡散されている幻想郷内のデマ――“米軍が幻想郷に基地を建設する”“魔理沙はCIAの協力者”など、悪質な情報ばかりが列を成していた。
「はっ!」
アレン少佐が端末を操作しながら言う。
「しかし、botは**5分ごとにアカウントが消滅し、新たなbotアカウントへ切り替わります。しかも、使用端末は世界中バラバラです。痕跡も巧妙に分断されています……!」
マクファーソンは眉をひそめ、拳を握りしめる。
「その5分が勝負だ! もしくは、奴らの通信の"跡"が残っていないか全力で探れ! サイバー戦部隊、電子戦ユニット、全てを動員する!!」
「了解!!」
ラミレス大尉が声を張り上げ、直ちに別動部隊に通達を出した。
冷戦の残火が、今また情報のかたちで幻想郷に再び燃え広がろうとしていた――。
――ロシア連邦・モスクワ、特別軍情報局地下作戦室(通称「鉄の箱」)
暗い部屋。壁一面に並ぶディスプレイに映るのは、幻想郷内のNATO軍拠点、博麗神社、そして仮設フランス軍宿舎の衛星写真。
「通信を傍受しました」
若い情報将校が言った。
「それで?」
椅子を軋ませてザカリン少佐が顔を上げる。
「はっ!フランス軍中央司令部の会話内容から、今月26日に新たな部隊が幻想郷に派遣される予定が判明しました。場所はパリ空軍基地からの出発となります」
ザカリン少佐の目が細められる。
「よし……その日に合わせて、フランス現地に潜伏するFSBユニットを動かせ。場所はパリ空軍基地、警備は仏憲兵隊が主担当だ。時間帯は未明が最適だ」
「装備は?」
「ウクライナで鹵獲したフランス装備――プジョーP4、仏軍戦闘服、SF92拳銃、HK416F、それにA-400Mへの搭乗を偽装する用の識別コードを手配しろ。兵士たちは完全に“仏正規軍”に偽装する。あとは、幻想郷への“合法輸送部隊”に紛れ込ませる」
もう一人の情報将校が口を開く。
「原潜“ウラジオストク”を日本海へ展開中です。陽動として活動を開始させますか?」
「動かせ。あえて目立たせて、日米の監視をそっちに集中させろ。鉄の騒ぎを起こすぞ……」
ザカリンは笑った。
その目は、冷たく鈍い鋼のように光っていた。
――幻想郷・仮設フランス宿舎
外ではフランス兵たちが訓練を続けている。
その背を見ながら、魔理沙は仮設の椅子に腰を下ろしていた。
彼女の顔は疲れていたが、その瞳は、確かな光を宿していた。
「私も、完璧に信用してるわけじゃない」
小さくつぶやく。
「……あのバンカーで、“真実”を見たからな。あの資料、あの記録。何人が死んだか、どこで誰が嘘をついたか、全部……」
肩を震わせながらも、魔理沙は言葉を続けた。
「……でも、少なくとも、ここにいる兵士たちは違う。信念を持ってここに来てる。守るべきものがあるから、命を懸けてる。それが……軍人なんだってことだけは、分かるんだよ」
彼女は立ち上がった。
「なら、私も覚悟を決める。私は、私のやり方で幻想郷を守る。誰かの操り人形には、絶対にならない」
――幻想郷・人間の里、集会所前
ざわめきが広がる中、郷土防衛隊の慧音一佐が、群衆を前に立っていた。
その目は真っ直ぐに人々を見据えていた。
「……みんなの不安も、怒りも、よくわかる」
静かに、しかし確かに言葉を紡ぐ。
「でもな……ここにいる兵士たちは、信念を持ってここにいる。あいつらは――幻想郷を奪いに来た侵略者じゃない!」
誰かが叫ぶ。「じゃあ、なんで軍がいるんだ!?こんなに物々しくて、怖いじゃないか!」
慧音は即座に答えた。
「それは……何者かが、お前たちを“恐れさせよう”としているからだ。恐れが支配すれば、人は簡単に間違った選択をする。幻想郷は、それを許す場所じゃないはずだろう?」
沈黙が広がった。
不安と怒りの中に、微かな理解の灯がともり始めていた。