守られる者たちと、煽られる民意
――魔法の森、仮設防衛拠点
仮設コンテナに設えられた司令区画の中。
魔理沙は、装備を整えた仏軍兵士に囲まれる自分の現状を、どこか窮屈に感じていた。
「なぁ……霊夢」
無造作に帽子を脱ぎ、壁に背中を預けた魔理沙がぼやいた。
「いくら私が狙われてるからって、これは……流石に過剰防衛のような気がするんだけどな」
護衛兵の一人が軽く頷くように目を細める。魔理沙の不満は、確かに正論だった。
霊夢は、そんな魔理沙を一瞥し、手に持った湯呑を静かに置いた。
「我慢しなさい」
「……ちょ、冷たくないか?」
「冷たいもなにも、現実は現実よ。守られるってのは、つまりそれだけ価値があるってこと。自覚しなさい」
霊夢は目を逸らさない。そこには、巫女としての覚悟があった。
「でもよ……私、“誰かのために戦う”ってのが魔法使いの誇りなんだ。守られるだけってのは、ちょっと違うだろ?」
霊夢はふと視線を外し、窓の外で歩哨に立つ兵士たちを見やった。
その背には、銃と防弾ベスト、そして誰かを守る覚悟があった。
「……じゃあ、まずは生き残りなさい。それから考えればいい」
魔理沙は苦笑した。
「そりゃ……筋は通ってるけどさ」
――幻想郷・広報分析室(NATO情報部門)
「なに?デマが拡大した?」
マクファーソン准将の眉がピクリと動いた。
「はっ!」
ラミレス大尉が資料を差し出す。
「報告によりますと、SNSを通じて『アメリカが幻想郷を支配しようとしている』といった内容のデマが、人間の里を中心に拡散中です。若年層を中心に動揺が広がりつつあり……一部で抗議行動の呼びかけも」
「誰が流してる?」
「発信源は複数。典型的なボットアカウントの形跡があり、一部はロシア語由来の文法構造です。人工的に増幅されています」
マクファーソンは、苦々しい顔で命じた。
「**自衛隊、幻想郷防衛隊、各方面に通達!**最悪の場合は軍・警察の共同対応を検討せよ。ゴーストフォースを動かす」
――幻想郷・陽炎山麓、警戒展開地
霧が立ち込める山麓。郷土防衛隊の小隊と、迷彩服に身を包んだゴーストフォースが合流する。
「――ケース少佐、本部より連絡が入りました」
「どうした」
部下が端末を見せながら言った。
「幻想郷内で情報攪乱が拡大中。若者を中心に波紋が広がっており、場合によっては暴動に発展する恐れあり、とのことです」
ケース少佐は、重く息を吐いた。
「この土地の文化と構造を甘く見すぎたな……。だが、まだ間に合う」
彼は、郷土防衛隊の現地指揮官である勇儀一尉に歩み寄った。
「勇儀一尉。我々は部外者だが……幻想郷のために動く覚悟はある。君たちと共にやりたい」
勇儀は少しの間黙していたが、やがて頷いた。
「……わかった。あんたらが本気なら、こちらも受け入れる。ただし、暴力で終わらせない。それが、俺たち幻想郷側の条件だ」
「同意する」
二人の握手を見つめる中、作戦が動き出す。
――幻想郷・人間の里、夜
SNS発の情報が飛び交い、屋根の上からは若者たちの集団が叫び声を上げる。
「幻想郷を返せ!」
「軍は幻想郷から出て行け!」
「巫女は西側のスパイだ!」
松明が揺れる。どこかでガラスが割れる音。
その中、里の広場にはゴーストフォースと郷土防衛隊・自衛隊の・警察の合同パトロール隊が展開し、冷静に群衆の制御を試みていた。
「落ち着け!誰も敵じゃない!」
市原二佐の声が響く。
それでも、誰かが煽るように言う。
「奴らは幻想郷を支配しに来たんだろう!」
「そうじゃない!」
魔理沙の声が響いた。
防護服のフランス兵たちに守られながら、彼女は一歩前に出た。
「少なくとも私は、守られることに納得してない。でも……今は、これしかないんだ。だからって、暴れてどうするんだよ!」
一瞬、群衆が黙った。
魔理沙の声は届くか。幻想郷が、自らの意思を取り戻せるか。
そして――その影で、「暴動を誘発し、混乱の隙に魔理沙を拉致する」という計画が、静かに準備を進めていた。