揺れる幻想郷、忍び寄る影
――幻想郷・人間の里。
かつては穏やかだった里の空気が、どこかざらついている。
情報端末で流れるニュース、SNSの断片的な投稿――それは“外の世界”の影が、里人の心に影を落とし始めた証だった。
「アメリカ側が幻想郷を軍事的に掌握しようとしている」
「自衛隊はただの隠れ蓑、実態はNATO軍の占領政策」
「日本政府は幻想郷を“自治区”にしようとしている」
里の酒場では、そんな話題がまことしやかに囁かれていた。
「ええ……大丈夫かい、これ……」
肩を寄せ合う年配の住人たちの声が、どこか怯えている。
混乱の火種は小さい。しかし、その火が燃え広がる準備は着実に進んでいた。
――幻想郷外縁部、NATO前線本部
マクファーソン准将は、タクティカルマップを睨みつけながら言い放った。
「今後はゴーストフォースとも連携していく」
その言葉に、戦術通信室の将校たちが頷く。
JSOCの精鋭──影の特殊部隊であるゴーストフォース。彼らはすでに幻想郷での諜報・監視・心理作戦に本格介入しつつあった。
「幻想郷は"無垢"だ。しかし、その中で蠢く感情や疑念は、外の世界の火種よりずっと怖い」
――同時刻:アメリカ欧州軍司令部(EUCOM)
「マルク大尉!」
声が響いた。立っていたのは、マクファーレン中将。
「はっ!」
エマニュエル・マルク大尉は直立不動の姿勢で答える。
「君の部隊は、魔法の森に仮設拠点を築いているな?」
「はっ!」
「命令だ。霧雨魔理沙くんを守れ!命に代えてもだ!」
「はっ、必ず……!」
フランス陸軍特殊部隊第13RDP所属、精鋭のマルク大尉はすでに作戦地域に展開しており、魔法の森近郊にて対ゲリラ対応の訓練拠点を築いていた。
その場で即座に魔理沙の行動ルート、接近ルート、夜間移動経路を再評価し、周囲に対人センサーと光学監視網を張り巡らせた。
――博麗神社
「魔理沙のこと、お願いできる?」
霊夢の目は真剣だった。
その問いに、朝田三佐は黙って頷く。
「……必ずお守りします。もし万が一、何かあった場合は――私が責任を取ります」
霊夢は目を見開いたあと、静かに首を縦に振った。
「……ありがとう」
――幻想郷情報室:米軍作戦本部
アレン少佐の指が、ホロディスプレイを操作していた。
「ロシアが策謀している。ウクライナ議員の誘拐事件、ザポリージャ原発への接触未遂、そして……チェルノブイリに異常なアクセスログ」
「VXガスが再び流通しているという話もある」
ラミレス大尉が資料を投げる。
「そうだ。しかもこの前、ロシア化学兵器軍の司令官が暗殺されたばかり。内部抗争の匂いすらある」
スターリング少佐が唸る。
「幻想郷に対する影響は……“混沌”というより、“操作”だ」
アレン少佐は、低く結論を出した。
――ロシア軍機密作戦会議
「報告します。魔理沙の護衛が強化されました」
ペトロフ少佐が報告する。
「だろうな。奴らだって無能ではなかろう」
ヴェルニエフ大将は苦く笑う。
「……それから、日本の公安部隊が魔理沙を警護しているとの情報もあります」
ザカリン少佐が続けた。
「なに? 現地入りしたFSBの報告ではフランス軍だと言っていたぞ?」
ヴェルニエフは声を荒げる。
「情報が錯綜しています。米仏、NATO、自衛隊……各国が魔理沙周辺に兵力を集中しつつあります」
「ふん、いよいよ面白くなってきたな……」
――アメリカ・インド太平洋軍(INDOPACOM)本部からの通信
「……マクファーソン准将、これは韓国情報院(NIS)からの速報だ」
報告を受けたマクファーソン准将の目が険しくなる。
“北朝鮮、平安北道に新たなウラン濃縮施設を建設中”
“北朝鮮海軍が新型潜水艦を東海で試験航行中”
"北朝鮮海軍は進水に失敗した駆逐艦を修復中"
「……くそっ、北朝鮮まで動いてきたか。新型艦といい、核濃縮といい……こいつはもう完全に“グレートゲーム”だな」
マクファーソン准将はゆっくりと背後の作戦マップに歩み寄り、静かに言い放った。
「これはただの幻想郷問題じゃない。“世界戦略の変局点”だ」