今そこに存在する危機
シエラ・デルタ空軍基地より1機の大型軍用輸送機が離陸
C-17グローブマスターが幻想郷の空を旋回し、滑るように霧の上を飛び去っていった。
あの機内には、ベクター・ハウンドの隊員たちが乗っている。
精鋭にして、闇に生き、痕跡を残さない男たち。
だが――
その穴を埋めるかのように、黒い影が現れた。
深夜、霧に包まれた草原を走る、黒塗りのMTVRトラック。
車体番号もマーキングも一切ない。
ヘッドライトは赤外線モードに切り替えられており、暗視装備を持たぬ者にはまるで影そのものにしか見えなかった。
それは“交代”ではなかった。
それは“引き金”だった。
米特殊作戦軍JSOC指揮下――“ゴーストフォース”。
それはアメリカ特殊作戦軍"ゴースト・アーミー"と双璧をなす存在。
だが彼らはあくまで「戦う影」である。
アフガニスタン、イラク、シリア、ジョージア、南シナ海――彼らが姿を現す時、それは危機の証明である。
マクファーソン准将は、それを知っていた。
「ロシアが動く。北朝鮮は既に兆候を見せた。中国は様子見を装って、その爪を伸ばしている……」
「これは、既に“作戦”だ。しかも多国籍で連動したものだ」
彼が警戒していたのは、静かなる侵略だった。
「また、物騒な部隊が来たわね……」
博麗霊夢は霧の向こうに現れたトラックを見て、眉をひそめた。
「おお…見ろよ、あの装備……なんかクロウとは違う威圧感があるな」
魔理沙がゴーグルを下ろしながら、身を乗り出すように呟く。
「なんで骸骨のマスクなんて被ってんのよ」
比那名居天子があからさまに眉をしかめて言った。
「……あれは、まさか……」
咲夜がスカーレット邸で見た幾つかの報告書を思い出しながら口にした。
「SASのナイジェル中佐とスターリング少佐の装備にも似ているけれど、違うわね。もっと……殺気立ってる」
朝田三佐は黙って双眼鏡を下ろし、唸るように言った。
「……あれは、ゴーストか……?」
「まさか」
ラミレス大尉の声に、微かに緊張が滲んだ。
「……来たか」
ニコ中佐(ジョージア軍)は呟いた。
「オセチアの時、我が国にやってきた部隊だ。あれは“闇の亡霊”だった」
「ゴーストフォースだ」
スターリング少佐が短く答えた。
その表情には、畏怖と同時に安堵があった。
ナイジェル中佐『彼らが来るということは…』
マルク大尉『ああ…危機が迫っているということか』
パク大尉『第707を思い出すな、あの黒い装備は』
テハン少尉『僕がまだ北朝鮮に居た頃に黒い部隊がありましたね…存在は秘匿されていましたが…』
カティンスキー中佐『アルファ部隊…いや違うな』
MTVRの後部が開く。
完全武装の兵士たちが無音で下車する。
黒の戦闘服、ナイトビジョンゴーグル、骸骨のようなマスク。
一糸乱れぬ動き。無言の整列。
その中央から一人、背筋を伸ばした男が前に出る。
「……私は本日よりここに派遣された部隊、ゴーストフォースの指揮官、ウィリアム・ケースという者です」
彼の声ははっきりと、だが抑制された力を秘めて響いた。
「以後、よろしくお願いします!」
整列する部隊員たちが、統一された敬礼を行う。
無言の中にも、確かな意志があった。
アレン少佐が歩み寄る。
「久しぶりだな、ケース」
ラミレス大尉も笑みを浮かべる。
「ずいぶんと出世したじゃないか」
「まあな」
ケース少佐は少しだけ口元を緩めた。
マクファーソン准将が前へ出る。
「幻想郷の諸君、彼らが来た理由は明白だ。現在、この地を狙う複数の脅威が確認されている。ロシアの情報部隊、北朝鮮の非正規工作員、中国人民解放軍の暗部――彼らの脅威はすでに現実のものだ」
「それに対し、我々は警戒するだけでは不十分だ。能動的な監視と、必要時の即応体制が必要だ。それがこの部隊――“ゴーストフォース”の役目である」
ケースが続ける。
「我々は幻想郷の軍ではない。だが、ここで命を賭して戦う覚悟を持つ。必要があれば、皆さんと共に戦い、必要がなければただ陰から支える」
「我々の存在は表には出ない。だが、誰かがその影を見つけた時……それは、敵の最期だ」
霊夢が肩をすくめるように呟いた。
「……まぁ、いいわよ。守ってくれるって言うなら、歓迎してあげる」
魔理沙がにやりと笑う。
「じゃあ、派手な花火はあんたらに任せるってことで」
朝田三佐はゆっくりと頷いた。
「共に守りましょう、この場所を」
シュルツ中佐『よろしく頼む、ケース少佐』
その夜――
影は幻想郷に降り立ち、静かにその牙を研ぎ始めていた。