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静かなる影、緊急対応訓練開始」


幻想郷駐屯地、早朝。


一見、いつもと変わらぬ訓練日。だが、空気は違っていた。まるで、何か見えざるものが――忍び寄るような、張りつめた緊張があった。


駐屯地の端に大型輸送車が入り込むと、完全武装の黒装束の一団が降り立つ。胸元に「SAT」と刻まれた文字が、霊夢や魔理沙たちの目に留まった。


その中の一人が、鋭い眼差しを向ける。長野県警特殊部隊班長・杉本警部補――彼は過去、月見荘立てこもり事件で突入班を率いた歴戦の男であり、なおかつ浅間山荘事件を語り継ぐ者の一人でもあった。


山森一佐が霊夢たち郷土防衛隊を前にして、重く口を開く。


「今日行うのはテロ対応訓練だ。だがこれはただの模擬戦ではない。現実に起こりうる最悪の事態を想定した、実戦型訓練だ」


そして、SATを紹介する。


「長野県警警備部より、特殊急襲部隊の皆様が本訓練に協力してくださる。彼らは1972年の浅間山荘事件以来、日本における対テロ・対銃器犯との戦いに身を投じてきた。経験から来る判断力と即応性は、我々にとって貴重な知見となる」


霊夢が目を細める。


「テロね……幻想郷だって、例外じゃない。過去に騒ぎを起こした連中は山ほどいるし、今も異変を起こそうとする影は絶えない」


魔理沙が冗談交じりに言う。


「私たち、異変解決のプロだけど、今回は“銃”や“人質”が相手なんだろ? やり方が違うな」


アリスが静かに頷いた。


「だからこそ、“学ぶ”のよ。力任せじゃ守れない命もある」


訓練開始「人質救出作戦」


廃ビルに見立てた建物に“テロリスト役”が立てこもり、模擬の爆弾と人質を配置。SATと郷土防衛隊が合同で対応する形となる。


杉本警部補が耳元の無線に口を当てる。


「突入A班、窓際スナイピング開始。郷土防衛隊は南側出入口の確保。霊夢――君は交渉役に回れ」


「私が……?」


「そうだ。君たちは“非殺”を基本とする戦い方をしてきた。交渉による鎮圧ができるなら、それに越したことはない。だが、万が一を想定して我々が動く」


霊夢は深く頷き、交渉ポジションに入る。防弾ガラス越しに、スピーカーを通じて“テロリスト役”と会話を始めた。


「――あなたたちの目的は何? 話し合えるのなら、私はあなたの声を聞く準備があるわ」


一方、SATと郷土防衛隊の混成班は裏口から慎重に進入。アリスの人形がカメラを持ち、内部の構造をリアルタイムで伝えてくる。


にとりは無線機を抱えながら支援班に指示を出す。


「外部回線の遮断完了。通信妨害設定ON。監視カメラ、全方向接続OK」


杉本警部補の指示で、SATの突入班が静かにポジションを取り、5秒のカウントを開始。


「……突入!」

小野田巡査部長「行くぞ、第1班は付いて来い!。」


SAT隊員(突入1班)「魔理沙、あなたは2番目、シールドの後ろ。合図で火力支援を」


魔理沙「おっけー。遮蔽は任せて。ぶちかまそう」


SAT隊長(無線)「閃光手榴弾、用意。全員、イヤープロテクター確認!」


シュルシュルッ、と閃光弾のピンが抜かれ、最前衛の隊員がわずかに前に出る。


「スタングレネード、投擲ッ!」

「フラッシュバン、イン!」


金属音の跳ねる音とともに、弾体がエントランスに投げ込まれた。直後――


――ドゴォンッ!!

鋭い閃光と共に、空気が一瞬止まったような衝撃音が工場内に響く。


SAT隊員「GO!GO!GOッ!!2階へ上がれ!!」



シールド持ちがドアを開け、先頭が突入! SATの隊員たちは「楯→銃→制圧→確保」の順で訓練された動きを正確に行う。


魔理沙もすかさず中へ滑り込み、左手で構えたM79から、催涙ガス弾を発射!


ボウッ!

――光と音だけの安全な閃光弾が、犯人役の足元で炸裂!


犯人役(SAT教官)はバランスを崩し、そこへ第2班の突入隊員が滑るようにタックル。

地面に押さえつけて、結束バンド式の拘束具で両腕を確保。




にとりが持つ端末のスクリーンに、工場内の配電マップが表示されていた。彼女は素早く該当回路を遮断。


◆「視界を奪え」


突入通路の照明が突然ブラックアウト。


犯人役の隊員「ッ……っ、視界が――!」


その間隙を縫うように、SAT後続班が突入。NVG(暗視装置)を装着済みの隊員が音もなく通路を進み――


ドンッ!!

後頭部に一撃。犯人役が仰向けに倒れる。即拘束。


SAT後続班「ターゲット2、確保完了。通路制圧!」



魔理沙「行くぞ、SATのお兄さん方!私は火力支援だ!」


SAT突入班1・2は廃工場の南口に展開。合図とともに**閃光手榴弾スタングレネード**が投擲され、爆音と閃光で敵役を制圧状態へ。


橋本警部補「GO GO GO!前進せよ!」


魔理沙が先頭に躍り出て、催涙ガス弾を敵の足元に撃ち込む。SAT突入員が即座に模擬犯人にタックルし、拘束具で固定。


正邪「そっちクリア!こっちもいける!」


アリス(無線)「後方通路に1名、移動中!にとり、照明落として!」


にとり「了解、ライトジャマー起動!」


敵役が逃げようとした通路が突然真っ暗になり、視界を失ったその隙にSAT後続班が突入。完封。


イナバ率いる第3班が閃光弾と共に突入が始まり、霊夢の交渉の隙を突いて突入班が“テロリスト”を制圧。


すべてが正確で、迅速だった。


訓練終了後の講評


◆制圧完了――戦術的連携の勝利


建物内、全フロア制圧報告が上がると、杉本警部補が無線にて指示。


杉本「訓練終了。全隊、武装解除して撤収体制へ。郷土防衛隊、見事な連携だった」


SAT突入隊員「魔理沙の弾幕、あれ……実戦でも通用しますね」


魔理沙「へへっ。訓練用だけどな!次は“本物”でやるから、覚悟しとけ!」


正邪「……すごい。私たち、警察の精鋭と並んで動けた」


アリス「これが現実の戦術連携。感情じゃなくて、計算と手順で動いてる」


にとり「分析完了。突入から制圧まで、わずか1分48秒。理想的!」


夕暮れ、山森一佐と杉本警部補がそれぞれ講評を行う。


杉本警部補は、隊員たちに向けて静かに語りかけた。


「1972年、浅間山荘。私の上官たちは、銃声と炎の中で命を懸けて人質を救った。2007年の月見荘事件では、犯人の銃により仲間が重傷を負った。だが――今ここにいる諸君は、それを“伝え”“備える”側にいる」


「幻想郷がどれだけ特異な場所であっても、“命を守る技術”と“意志”は地続きだ。君たちの動きには、確かにその片鱗があった」


正邪は肩をすくめて言う。


「言ってくれるじゃないの。まぁ、銃なんて卑怯なモン相手に、真っ向勝負はできないからね」


天子は得意げに、しかし少し神妙に言った。


「交渉って、あんなに神経を使うものなのね……舐めてたわ」


にとりは記録したドローン映像を確認しながら呟いた。


「これ、研究資料として最高レベルだよ。幻想郷に警察組織はないけど……何かを守る仕組みは、こうして学べるんだな」


魔理沙は霊夢の肩を叩いた。


「なあ、霊夢。あんた、ちょっと交渉人向いてたぜ?」


霊夢は微笑みながら答えた。


「たまには、“話して解決する”ってのも悪くないのよ」



◆評価と布石


山森一佐「霊夢の交渉、魔理沙たちの突入、アリスとにとりの技術支援――完璧だった」


杉本警部補「これは訓練だ。しかし、いつか本物が来る」


アリス「……“本物”?」


杉本「私たちは、“本物”の火を見た。浅間山荘、月見荘、渋谷地下……。火はいつだって、静かに近づく」


その言葉に、霊夢の顔が引き締まった。





水面下にて ――


その夜、ウラジオストク。海軍地下施設にて。


ロシア軍上級大将・ヴェルニエフは、冷たい眼差しでモニターを見つめていた。日本国内のテロ対策訓練。幻想郷との合同演習。衛星画像から得られた映像が、次々と表示されている。


「……着実に“地上の秩序”が幻想郷に浸透しているようだな。だが――」


ヴェルニエフの視線が一点に止まり、低く呟く。


「幻想郷には、“秩序を拒む者”がいる。奴らが地上と手を取り合うことが、本当に可能なのか……試す価値はある」


横に立つ部下が言った。


「計画“スコール”――準備は整っています」


ヴェルニエフは静かに頷いた。

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