現実の影、幻想を貫く」
幻想郷軍事演習【イーグル・ライン】 第二段階開始
作戦形式:現実装備・現実戦術による全面演習
目的:極限状況における多国籍連携能力の検証
参加部隊:NATO各国軍、自衛隊、米海兵隊、VECTOR HOUND(PMC)、ウクライナ国防軍、自由ロシア軍、旧ロシア正規軍部隊(現脱出者)
霧の湖の上空には、AH-64E アパッチ・ガーディアンが旋回していた。
その眼下、草原と森林に区切られた仮想戦闘区域には、装甲車両と迷彩服の兵士が無言のまま配置についていく。
「――ここが、本当に“幻想郷”なのか?」
自由ロシア軍の指揮官である元ロシア陸軍大佐・マルコフは呟いた。
その隣で、ウクライナ軍第145歩兵連隊の少佐が笑う。
「俺たちがドンバスで使った戦術が、ここでも通じるならな」
それは、まぎれもない“現実”だった。
電子戦、ドローン観測、兵站遮断、地形利用の市街戦、奇襲、囮、分散化――魔法など一切用いない。
【シナリオA:戦闘都市防衛】
演習の第一課題は、幻想郷南部の村(仮想市街地)を防衛すること。
設定では「テロ組織が越境侵入し、市街地を制圧。住民避難に失敗し交戦必至」というものだった。
NATOの通信管制システムが起動。イギリス軍第3パラシュート連隊が市街南端に展開。
自衛隊は96式装輪装甲車を市街北端に配置、PMC VECTOR HOUNDは地下排水路を通じて裏手からの攪乱行動を担当。
そして、ウクライナと自由ロシア軍は、互いに無言で呼吸を合わせると、
旧ソ連製のBMP-2Mに乗り、まっすぐ敵地の中央へ突入した。
「我々は、幻想を守るために来たのではない。“次の現実”を作るために来たのだ」
ペトロフの言葉に、マクファーソン准将は頷いた。
【異質な訓練】
この訓練には“違和感”があった。
幻想郷で行われているのに、誰も魔法を使わない。霊夢も魔理沙も、ただ観測者として後方でモニタリングしているだけ。
代わりに戦場を駆け抜けているのは、最新の現実兵器だった。
●M142 HIMARS(高機動ロケット砲システム)
●MQ-9 リーパー(長距離戦闘ドローン)
●PAC-3MSE(迎撃ミサイルシステム)
●IRON BEAM(イスラエル製レーザー迎撃装置・試験配備)
●F-35B(STOVL戦闘機)+F-15EX(制空型)連携
●DARPA開発中のProject Valkyrieによる指揮支援AI(構想段階)
●旧ソ連設計のT-80UM-2“ブラックイーグル”(自由ロシア軍で再配備)
これらが連動して一つの陣形を形成し、敵勢力を“瞬間的に包囲・制圧”する新戦略が試されていた。
【そして、戦略の転換点】
演習三日目。深夜。
突然のドローン偵察映像に、異常な“揺らぎ”が映し出された。
それは「空間歪曲」――幻想郷特有の現象である。現実兵器が通じない、真に“幻想的な領域”。
そこに一人、PMC VECTOR HOUNDの隊長が立っていた。
「……やはり出るか。“現実”だけでは対応できない領域」
彼はそう言って、手元の装備を切り替えた。
DARPAの試作装備《ECHO-7》――重力波レーダーと空間干渉装置を組み合わせた“仮想現実浸透装備”。
これだけが、あの歪みを“見る”ことができた。
【そして霊夢が動く】
結界の変動を感知した霊夢が、演習指令所に現れた。
「……やっぱり、“現実”だけじゃ済まないのね」
彼女は結界術の封印札を一枚取り出すと、PMC隊長に手渡した。
「これはあなたたちのためじゃない。この世界に足を踏み入れた以上、“責任”は共有するって意味よ」
【章末】
幻想郷での演習【イーグル・ライン】第二段階は、幻想と現実の“融合”の兆しを見せつつ幕を閉じた。
参加した自由ロシア軍の兵士たちは、かつての祖国と違う“理想の地”に光を見出し、ウクライナ兵たちは魔法よりも信頼こそが防衛の鍵だと語った。
「……この世界が何でできているか、俺たちは知らない。
だが、守る理由があるなら、戦う意味もある」
演習の後、マクファーソン准将は密かに手記を記した。
『これはただの演習ではなかった。
幻想と現実が、かつてないほど“交錯”した瞬間だった。
そして――まだ、本当の戦いは始まっていない』