第87章:「イーグル・ライン ― 鷲の如く、共に翔ぶ」
――時は、幻想郷に真の“協力”が芽生え始めた初夏のこと。
シエラ・デルタ基地の作戦室では、マクファーソン准将が全体ブリーフィングを終え、前方のホログラフに演習作戦名を映し出した。
そこに浮かんだ名前――
《EAGLE LINE》作戦
それは、NATO、米軍、自衛隊、そして幻想郷で編成された「郷土防衛隊」が合同で行う、初の大規模な相互連携訓練だった。
【幻想郷・霧の湖前線基地】
演習地には、幻想郷の郷土防衛隊――霊夢、魔理沙、早苗、妖夢、アリスらが並んでいた。
彼女たちはすでにこの世界の真実の一端を知っていた。世界の裏側、月の懸念、CIAの影、そしてロシアや中国が動き始めていることを。
それでも、彼女たちは撤退しなかった。
「あたしたちはここで暮らして、ここで戦ってきた。なら、守るのも当然だよな」
魔理沙の言葉に、マクファーソンは深く頷いた。
「……あなた方がそう言ってくれるなら、我々も立ち上がる価値がある。
この《イーグル・ライン》は、我々NATOが幻想郷の未来を共に守る意志を示すための作戦だ」
その言葉に、早苗は目を細めた。
「“守る”って、簡単に言えないこと。けど……信じられる気がします。今なら」
【演習構想概要】
●名称:EAGLE LINE作戦
●目的:幻想郷における防衛連携訓練と、郷土防衛隊との実戦的連携確立
●場所:妖怪の山山腹、霧の湖西部、紅魔館周辺林地、永遠亭外縁などに仮設演習区画を設定
●構成:
NATO即応部隊(英・独・伊・米混成)
米海兵隊第31MEU
航空自衛隊 航空救難団・陸自西部方面隊合同チーム
幻想郷郷土防衛隊(博麗神社チーム・地霊殿チーム・妖怪の山チーム 他)
特別派遣PMC部隊(国防総省監督下・ID:VECTOR HOUND)
【PMC参戦】
シエラデルタ側からの報告で明らかにされたのは、国防総省直轄のPMC(民間軍事会社)部隊の参加であった。
その名は――VECTOR HOUND
元デルタフォース、SAS、スペツナズ出身者を含む精鋭部隊。各国の正規軍では取り扱えない「不確定状況への即応戦術」を専門とし、今回は幻想郷の“予測不能空白領域”への対応訓練という名目で派遣された。
マクファーソンは重く口を開く。
「……彼らは“守る”ために来たのではない。測るために来た。我々の覚悟も、この幻想郷の“戦う力”も」
紫が言った。
「測られるなら、見せてあげればいい。幻想郷は、ただの幻ではないということを」
【かつての影 ― “ライオン・ハート”】
イーグル・ラインという名には、もう一つの意味が込められていた。
1回目は1984年にイギリスで行われた冷戦時代における最大規模のNATO軍事演習である
2003年、NATO加盟国が旧ソ連圏で行った多国籍連携演習【ライオン・ハート】
かつて冷戦終結後に希望を込めて行われたその演習は、国境を超えた「共同防衛」の象徴とされた。
「我々はあの時、“二度と世界を分断しない”という理想を胸に演習を行った」
「今度は“幻想と現実の分断を越えて”、同じ理想を追いたい――それがこの作戦のもう一つの名です」
【演習開始】
6月、演習は開始された。
ドローン、レーザー指向訓練、センサーによる探知索敵、魔理沙のスターダストによる範囲撃破、幻想郷式防衛展開と自衛隊の電子戦支援が交差する。
PMCは独自のドローンを展開し、軍事反応の解析を行っていた。
「魔法という非現実では現実に太刀打ちすることが難しい…だが科学と協力すれば、守れるかもしれない」
「戦術だけじゃない。信頼ってやつも――必要なんだな」
そう言ったアレン少佐の言葉に、霊夢はうなずいた。
「……戦うだけじゃ、意味がない。守った先に、信じるものがあるから」