【混乱の中で誰を守り、止めるのか】
翌朝。幻想郷駐屯地の訓練場は、前日の整然とした雰囲気とは打って変わり、混沌とした市街地を再現したセットが組まれていた。
建物は半壊状態、道は瓦礫や火の手で塞がれ、人々の怒号や悲鳴がスピーカーから絶え間なく流れている。
今回は――実戦形式の避難・検問訓練。
「今回は我々が直接演技者となり、各班は独自判断で検問の設置と避難誘導を行う」
山森一佐の言葉に、霊夢・魔理沙・早苗・アリス・フランドール・天子・正邪ら、郷土防衛隊の面々が頷く。
「これはゲームではない。人命がかかっていると思って動け。訓練ではあるが、“最悪”を想定して臨め」
【作戦開始:第1波】
時刻は午前10時。設定上、幻想郷の中規模都市で震度6強の地震が発生。火災・建物倒壊・通信寸断・人員の混乱……。
アリスの無線が各班に指示を飛ばす。
「検問班、配置完了してください! 避難誘導班は市街地南口へ!」
霊夢と魔理沙は交差点に臨時の検問所を設置。木のバリケードとスパイクストリップ、車両検査用のミラーと金属探知機まで本格的に用意されていた。
そこへ、最初の“通行希望者”が現れる。
「通してください! 向こうに家族がいるんです!」
二人の中年男性が駆け寄る。魔理沙が進み出る。
「身分証明書を確認します! 危険区域に入るには許可が必要です!」
「そんな悠長なこと言ってられるかよ! あっちは今にも倒れそうな家があるんだぞ!」
霊夢は冷静に対応する。
「それでも、崩落の可能性がある以上、勝手に通すわけにはいかないの。あなたが巻き込まれたら意味がないわ」
躊躇いながらも、男たちは引き下がる。「通すべきか、止めるべきか」――その判断は、彼女たちに委ねられていた。
【第2波:火災、そして混乱】
数分後、市街地北西で火災発生の報が入る。現場へ向かう避難誘導班の早苗とフランドール。
「この先は立ち入り禁止です! 迂回路をご利用ください!」
「いやだ! こっちのほうが近い! 子どもがいるんだ!」
煙が立ち込める中、フランドールが火の手の方向を見て呟く。
「……あのルート、確かに倒壊の危険はあるけど、火はまだ届いていない」
早苗と目を合わせる。
「強行突破させたら自殺行為。でも……子どもがいるなら、私が先導して最短ルートで案内できます」
決断の末、早苗は男性とともに突入、フランドールが後方警戒に回る。
数分後――避難成功。
「……ふぅ、間に合ってよかった」
フランが微笑んだとき、背後から煙の中に人影が現れる。
それは、“検問突破を試みるスパイ役”の鬼人正邪だった。
「悪いが……ちょっと情報を持ち出させてもらうよ?」
【暗躍と判断】
正邪は無許可で瓦礫の中を移動。彼女を見つけた霊夢たちは即座に無線を入れた。
「検問班より警戒通達。不審者が北東ルートから接近中。見た目は負傷者に偽装。応急処置を求める振りで通過を図る」
天子が顔をしかめた。
「姑息な真似を……!」
アリスが即座に指示を出す。
「検問班、Bルートに防壁を展開。火災報知器を作動させて陽動を封じて」
魔理沙がスモークボムを展開し、視界を封じる。霊夢が身を翻し正邪を包囲する。そしてパトカー仕様のジムニー・
ランドクルーザー250・アウトランダーが駆けつけ防衛隊で包囲した、隊員達を率いて現れたのは水橋・パルスィ
パルスィ「止まりなさい……ここまでよ、正邪」
「へぇ、あんたら、前より随分と“軍人"っぽく”なったじゃないか」
正邪はひとつ笑って、両手を挙げた。
「訓練とはいえ、なかなかだったよ。見直したぜ、郷土防衛隊」
【訓練終了・総評】
日が傾く頃、全員が駐屯地に戻り整列する。山森一佐が静かに語り始めた。
「……本日の訓練は、混乱の中での判断力・対応力・抑止力を試すものだった」
「特に霊夢・魔理沙の検問対応、早苗・フランドールの避難誘導は良好。アリスの通信指揮も的確だった」
「だが――今はまだ、“模擬”に過ぎない。本当の災害時は、もっと多くの声と涙と怒号が渦巻く。それでも、己の判断を信じ、守るべき者を見極めろ」
隊員たちは黙って頷く。
霊夢はポツリと呟いた。
「守るって、難しい。でも、間違っても“無関心ではいられない”ってのは、分かったわ」
アリスもまた、腕を組んで小さく言った。
「この訓練が、いつか本当に役に立つことがないように……でも、もしものときは、私は迷わない」
空を見上げれば、静かに夕日が幻想郷を照らしていた。
訓練の熱は、まだ、地に残っていた。