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【備えるために-訓練後】



訓練場に夜の帳が下りはじめ、灰色の煙がようやく晴れていく。騒乱のような訓練の名残がまだ空気に漂う中、郷土防衛隊の隊員たちは水筒を片手に、次々とテントに戻っていった。


ポータブルの仮設会議テントでは、指揮官らを中心とした反省会が行われていた。


テーブルを囲むのは、長野県警察機動隊所属の川西警部、アレン少佐、朝田三佐、マルク大尉、山村三佐に加え、アリス、八雲紫、にとり、そして霊夢たち数名。緊張感は残りつつも、どこか達成感が漂っていた。


【反省会・作戦指揮幕僚室】

アレン少佐が前に立ち、訓練用ドローン映像を再生しながら言った。


「全体としては良くやった。隊形の保持と後列との連携、特に第二列の警棒突撃は教科書通りの動きだった」


アリスが頷く。


「ええ、霊夢を含む第一列が動揺しかけた瞬間も、フランドールが指示通りに前を制したのは大きいわ。彼女、明らかに制御を覚え始めている」


フランドールは少し顔を伏せながら、小さく呟いた。


「怖かった……でも、だからこそ、“壊しちゃいけない”って思えた。あたし、あのとき初めて“盾になる”って気持ちが分かったの」


アレン少佐はフランドールに視線を向け、静かに言った。


「君の行動は、我々が願っていた理想の一つだ。制御された力は、“守るための武器”になる。それを体で理解できたことが何よりの成果だ」


魔理沙が少し悔しそうに、だが笑って言った。


「最初、ただの“暴動ごっこ”かと思ったけどな……いざ石や火炎瓶が飛んできた時、自然と構えた自分に驚いたよ」


早苗は冷静に振り返った。


「私は、暴動を止めることが“敵を倒すこと”じゃないって改めて思いました。秩序を守ることの難しさって、攻撃するよりもよっぽど難しいんですね」


「そうだ、それが“治安任務”です」

長野県警機動隊:川西警部はメモ帳を閉じて言う。


にとり「今日は私たち技術班も特型放水車改の制御テストと通信手順の確認ができた。にしても、あれだけの煙の中で隊形を崩さないなんて……人間の訓練って、ほんとすごいわ」


朝田三佐が振り返る。


「放水部隊との連携も見事でした。かつての警察予備隊と同じ、戦うためでなく“暴発を防ぐ”装備という思想に立ち返れた気がします」


その会話を聞いていた紫が、いつもの余裕を感じさせながらも少し真面目な表情を見せた。


「……幻想郷の秩序は、“空気”で保たれていた。皆が暗黙の了解で争いを避け、一定の線を越えなかった。けれど――」

紫はゆっくりと霊夢を見た。


「外の世界のルールが流れ込めば、その“空気”は壊れる。だからこそ今、あなたたちが“自分で守る術”を学ぶことは、本当に意味があるの」


霊夢は神妙な面持ちで頷いた。


「そうね。今までは妖怪退治とか、異変解決とか、私一人でどうにかするって思ってた。でも……これからは、私だけじゃ守れないこともある」


アリスが隣で静かに同意した。


「幻想郷が“社会”になるというのは、そういうことなのよ。責任を分かち合い、支え合い、時にぶつかる。けど、それを壊さないために、私たちは備える」


紫が最後に、ふと楽しげに微笑んだ。


「……さて、次の訓練は“検問”と“避難誘導”だったかしら? にとり、準備は?」


「もちろん、ばっちり! 次は郷土防衛隊に“災害派遣ごっこ”をやってもらいますよ!」


笑いが一瞬広がった。けれど、その中に確かな自覚と責任が根を下ろし始めていることを、誰もが感じていた。


幻想郷は変わる。

変わるからこそ、守らなければならない。


そして、それを担うのは――霊夢でも、紫でもない。

今この時代を生きる、一人ひとりの力だった。



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