第85章【黒いジェット機】
現在、アメリカで進められいるSR-72【ブラックバードII】
架空派生型を登場させてみました
2025年7月下旬――
混沌とする外の世界。
ロサンゼルスではデモが激化し、ドイツでは海軍艦隊が出撃、ウクライナではドローンと砲撃が火花を散らし、イスラエルは支援船団を海上で封鎖していた。
その夜、幻想郷は静寂に包まれていた。
「……なんか、空、変だよね」
そう呟いたのは、香霖堂の帰りに霊夢と並んで歩いていた魔理沙だった。
そして、その時だった。
――シュバァァッ……!
夜空を走る、かすかな振動。
鼓膜を揺らすでもなく、雷鳴のようでもない。
ただ、“空間が裂ける”ような音が確かに存在した。
霊夢は反射的に空を見上げた。
その視線の先には、星をなぎ払うように滑る一本の黒い影。
まるで空を引き裂く刃のように、それは音もなく、ただ光より速く横切っていった。
「あれは……何?」
魔理沙の声に応える者はいなかった。
いや、答えられる者が誰もいなかった。
◆シエラデルタ前線基地
その機影は、確かに「ゴッドアイ・レーダーサイト」に捉えられていた。
一時的なジャミングも、EMPも、不可視光シグネチャもなかった。
“あれ”は完全に通常空間を飛翔していたにもかかわらず――
スクランブル要請は出されなかった。
高射隊も、電子妨害班も、誰一人として動かされることはなかった。
「……意図的に、黙認された」
と、ある将校が呟いたが、それすら上層部には届かず、虚空へと消えた。
◆永遠亭
「永琳、その飛翔体……月の偵察機かしら?」
かぐや姫は静かに夜空を見つめ、問うた。
「いいえ、あれは違う。あの軌道、速度、放熱……地球側、それも軍事技術の頂点です」
永琳の声音には、わずかに警戒が滲んでいた。
「地球が……ここまで到達したというのね」
「ええ、“それ”が今ここを通ったならば……誰かがこの幻想郷に、“特別な何か”を探しに来ている」
輝夜は黙って空を見上げた。
永遠の命を持つ彼女の瞳に、一瞬、恐れに似たものがよぎる。
◆幻想郷防衛司令本部
マクファーソン准将の手から、コーヒーカップが滑り落ちた。
カップは床で割れ、黒い液体が滲んでゆく。
「まさか……SR-72C……」
彼の声は、誰にも聞こえなかった。
「オーロラ計画は、葬られたはずだった。だが、あれは……」
彼の眼には、かつてネリス空軍基地で見た幻の計画機が焼き付いていた。
全長30メートル近い機体。
レーダーに映らず、極超音速で飛び、熱の痕跡すら制御する“黒い亡霊”。
「……なぜ、ここに来た?」
幻想郷の境界が、また揺らいだ。
だが、今回は“誰か”が、それを越えてこちらを“見に来た”のだ。
◆博麗神社
翌朝、霊夢は静かに手を合わせていた。
昨日の夜の光景が、いまだにまぶたの裏に焼き付いている。
「境界を越えた何かが、見ている」
その直感は、間違いではなかった。