【立ち上がるもの達】訓練の日々
――幻想郷・地底議場
【速報】『幻想郷保安法』、臨時評議会で可決
2025年8月制定、通称「幻想郷保安法」
・郷土防衛隊の設置と準軍事的活動の合法化
・共同警備区域における妖怪・人間の連携活動の明文化
・有事対応指揮系統の確立(統合作戦本部下)
・兵站、通信、輸送、災害対応における地上支援との協調
制限された自治権の範囲内で、幻想郷は独自の“防衛法”を持った。それは外の国々の承認を得たわけではない。しかし、ここに生きる者たちの生存において、必要不可欠な「現実対応」だった。
――境界の村・北部哨戒線
【現地配備開始】初の妖怪・人間共同哨戒隊、出動
「こちらリグル隊長、現在B-3区画を哨戒中、異常なし。通信状態良好」
「こちら霊夢三佐、確認した。引き続き巡回を」
河童によって改造された簡易通信機が、雑音混じりに情報を伝える。霊夢と咲夜は装備を身につけ、トヨタ製トラックの荷台で双眼鏡を覗く。
共に立つ妖怪たちは、あえて魔力を抑制し、規律と現場判断で動く。幻想郷の自立を示す初の連携行動だった。
――訓練場(旧・河童鉱山)
【教育プログラム:戦訓講話】自衛官による「現実の戦場」講義
「イラク派遣のとき、我々は武器を構えていたが撃てなかった。だが撃てなくても、守れた命はあった」
話していたのは、陸自OBの関西弁まじりの山岡曹長。彼の言葉に、幻想郷の若い隊員たちは静かに耳を傾けていた。
「東日本大震災のとき、物資も燃料も、道すらなくなってた。でも人が生きてるかぎり、希望はあった。
覚えておいてほしい。“戦う”ってのは、銃を撃つことや、敵を倒すことやない。
“生き残る”こと。“守るべきものを守りきる”ことや」
その言葉に、魔理沙は拳を握り、アリスは無言で手帳に記した。
――博麗神社前広場・出動式典
白い朝靄のなか、整列した幻想郷郷土保安隊。その中には、霊夢、魔理沙、咲夜、早苗……見慣れた少女たちの姿もあった。だが、彼女たちの表情は、もう「ただの少女」ではなかった。
朝田三佐の訓示(記録抜粋)
「敬礼ッ!」
自衛官たちが一斉に腕をあげる。
それに応えるように、霊夢たちも――不器用ながらも、力強く敬礼した。
「皆さんにはこれより、防衛という厳しい任務に臨んでいただきます」
「困難な道で、挫折することもあるでしょう」
「しかし、それでも前に進むと選んだあなた方を――私は、日本人として、誇りに思います!」
「皆様のご武運を祈って!」
「ささげ銃ッ!!」
全員が、銃を掲げた。89式、64式、M14カービン、米国製M4、再整備された豊和製猟銃――各自の装備はまちまちだったが、そこにこそ幻想郷らしさがあった。
霊夢は誰にも言わず、静かに目を閉じた。
その横で、咲夜が無言のまま姿勢を正し、魔理沙がにやりと笑って肩を揺らす。
早苗は、胸に抱いた神の名をそっと唱えた。
彼女たちは、もはやただの幻想郷の少女ではない。命を賭ける者たちの眼差しを持っていた。
――マクファーソン准将の回想
「……あのバンカーで見せた現実は、恐怖だけではなかった。
自ら選び、立ち、守るという……国家と責任の原点を見せたのだ」
「信用を失ったかもしれない。それでも、これでいい」
「……もし、これが彼女たちの未来に繋がるのなら」
希望にも似た淡い期待と、
現実が常に裏切るという経験から生まれた薄暗い不安が、
彼の胸を重く満たしていた。