【地に足つく防衛力】訓練の日々
――幻想郷・旧河童製鉄所跡地
重油と錆の匂いが立ちこめる、廃工場の広い床面に、新たな鉄と火薬の音が響き始めていた。再稼働した整備施設の片隅で、整備員たちが古びた61式戦車のサスペンションを交換していた。
「ディーゼルは始動にクセがあるからな……よし、電装チェック!」
「了解! スターター回します!」
ゴォォ……ッ、ガラガラガラ――バン、と黒煙を吐いて戦車が目を覚ます。妖術や霊力は一切使われない。これは、あくまで「現実の世界の力」だ。
魔法ではなく、燃料と鋼鉄と訓練が幻想郷を守る。それが彼らの選んだ道だった。
――組織の成立:幻想郷郷土防衛隊
新設された組織の名称はあえて「軍」ではなく、幻想郷郷土保安隊(Gensokyo Defense Force)。
これはら吉田幕僚長・米軍幕僚の提案であり、旧・保安隊のように国家軍ではなく、自衛・治安・災害対応を主軸とした準軍事組織として設計されたものだった。
「必要なのは軍隊ではない。自分たちの暮らしを守れる“現実的な力”だ」
――朝田三佐
指揮機構:臨時統合作戦本部を設置。指揮権は評議会と自衛隊合同部に委任。
総員:約600名(初期)。村人志願者、妖怪(非魔法主義者)、一部の旧天狗兵含む。
装備:日本製旧式兵器を改良したもの(魔法技術不使用)。
動力源:すべて内燃機関(ディーゼル、ガソリン)。魔力補助は排除。
通信:SONY製の簡易無線、河童製のアナログ通信補助装置(EMI耐性あり)。
――訓練:まるで昭和の再来
泥と汗と火薬の匂い。整然と並ぶ兵舎の前、整列する隊員たちは、制服ではなくカーキの作業服を身にまとっていた。魔理沙も、霊夢も、銃を手にしていた。装備は簡素で古い。
小銃:旧式の64式小銃(河童による再整備済)
拳銃:M1911とSIG P220混在
車両:日産 サファリ、ハイラックス、三菱トラック、いすゞ2tトラックなど
「抜けッ! 撃てッ! 装填急げ!」
教官の怒号が響き、霊夢が泥に手を突っ込むように伏せ、銃を構えた。反動で肩を打たれながらも、彼女は一発、一発、確実に的を射抜いていく。
彼女たちは、いま“自らの力”で幻想郷を守るための基礎を学んでいた。
――咲夜の決意
紅魔館から送り出された咲夜も、従軍。手には銀色のM1911A1。
紅魔館の戦力は依然として独自保持されていたが、咲夜は「戦争は個ではなく集団で行うもの」と理解していた。
「幻想郷の戦いは、戦場の優雅な遊戯ではない。これは、命のやりとりだ」
――アリスの冷静な観察
アリス・マーガトロイドは戦術教範を読み込みながら、整然と行われる整備作業を見下ろしていた。
「この世界の兵器は、魔力に頼らない。だからこそ、現実を映し出す。整備ミスも、燃料切れも、撃たれれば死ぬ。それが戦争……幻想郷が知るべき現実」
――咲夜と霊夢の対話(夜の演習場)
「霊夢、こんなに泥だらけになるなんて思わなかったわ」
「私も。けど……これが戦うってことなら、ちゃんと覚悟する」
霊夢は64式をそっと抱きしめるように握りしめる。
「神社を守るため。みんなの暮らしを守るためなら、私はやるよ。……戦うって、こういうことなんだね」
■組織の今後:幻想郷の“予備自衛力”としての位置づけ
戦術教範:旧・自衛隊教範の簡略化版を採用(魔力項は削除)
兵站:村の木材・炭・軽油を活用した持続可能な物資供給
連携:在日米軍・陸自・英軍との“限定的相互運用”を模索中
広報:人間の里にて周知活動中。中立の仙人・妖怪による監査団も設立
――朝田三佐・訓示
「これは戦争の準備ではありません。これは……“崩壊を防ぐための基礎”です。
他人の力に頼らず、自らの足で立つ。幻想郷は今、それを選んだのです」