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第84章【未来への第一歩】訓練の日々


人間の里の東側、かつて耕作地だった平地に、仮設の演習場が設けられた。

土の匂い、風に揺れる草の音、そして何よりも――初めての「実戦訓練」に挑む郷土防衛隊の緊張が、そこにあった。


その中心に立つのは、NATO即応調査隊所属・アレン少佐。迷彩服に袖を通し、鋭い目で隊員たちを見回す。


「今回の目標は“敵陣突破”。匍匐前進と遮蔽物を利用し、少人数で敵の陣地に接近・制圧する訓練だ」


彼は持っていたタブレットを片手で見せながら続ける。


「地形は森に近い丘陵地。地雷原に見立てたトラップが設置されている。この訓練では、各自の判断力、チームワーク、そして“自分を抑える力”が試される」


その言葉に、一人の少女が深くうなずいた。


フランドール・スカーレット。

紅魔館の爆弾娘と恐れられた彼女が、初めて“制御された戦力”として参加していた。


「……大丈夫。私ならできる。咲夜が言ってた。『心を落ち着ければ、貴女の力は誰かを守るために使える』って」


彼女の背には、特殊制御装置が仕込まれた装具――**自律式歩兵支援システム『LVS-F Type』**が装着されていた。にとりたちの手で開発され、幻想郷郷土防衛隊の一部に導入が始まった支援装備である。


そしてもう一人、白と青の服に身を包んだ人形遣いが、その様子を穏やかな目で見つめていた。


アリス・マーガトロイド。


彼女はあくまで戦闘員ではなく、補助指導官としてこの訓練に参加していた。

三体の人形――上海、蓬莱、藍藍ランランを遠隔操作し、状況判断・行動支援の模範を示す役目を担っている。


「……訓練とはいえ、戦場に出るというのはやはり緊張するものね。でも、これが未来の幻想郷の姿なのよね……」


アリスは静かに目を細めた。

その視線の先には、旧型装備に身を包んだ郷土防衛隊の若き隊員たち。

60式装甲車が森の縁で待機し、後方支援の役割を担っていた。64式小銃を携えた隊員たちが、低い姿勢で地面に身を伏せていく。


「さあ、始めるぞ!」

アレン少佐が手を上げた。


訓練開始の号令とともに、ホイッスルが鳴り響く――


【演習開始:夜明け前の突破訓練】


薄明の中、匍匐前進を始める郷土防衛隊の第一分隊。草をかき分け、地面を這いながら進む様子に、フランドールも続こうと身を低くした。


「よし……地面を感じて、力を……抑える……!」


彼女の手には、訓練用に改修されたM39 EMR(Enhanced Marksman Rifle)。その細身の銃を肩に担ぎ、まるで爆発物であるかのような自分の力を制御しながら進む。


草の陰から、目標の「敵陣地」を模したバリケードが見えてくる。

突然――人形が前方に舞い上がった。


「煙幕展開!」


アリスの操る上海が、スモークグレネードを放り投げ、訓練場は白い霧に包まれた。

その間に、隊員たちは駆け込み、フランドールはバリケードに取りつく。


「今だ……撃つ!」


バンッ! バンッ!

彼女の撃った弾は、的に見立てた電子標的を正確に打ち抜いた。


「……できた。ちゃんと、できた!」


背後でアリスが小さく拍手を送る。


【演習終了後】


訓練が終了し、隊員たちは汗まみれで集まり始める。

アレン少佐が腕を組みながら口を開いた。


「非常によくやった。特にスカーレット伍長、君の動きは安定していた。制御訓練の成果だな」


「ふふ、ありがと……!」


フランドールは照れながらも、どこか誇らしげに笑った。

アリスが隣に立ち、そっと背中を支えるように囁く。


「あなたは変わったわ。……その力で誰かを守ろうとしている限り、あなたはもう『脅威』じゃない」


その言葉に、フランは小さく頷いた。


「うん、私はもう、“壊すだけの存在”じゃないよね」


イェーガー大尉『もちろんだ、君はもう防人だ』

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