第16章:「紅魔館会談 ― 幻想の未来と現実からの警告」
紅魔館の大広間には、豪奢なシャンデリアの光が柔らかに灯っていた。
だがその優美な空間とは裏腹に、会談の空気は針金のように、張り詰めいく…まるで自分たちが針金に拘束されつつある感じがする
各国の外交官、軍人、幻想郷の代表者たちがそろう中――
アリス・マーガトロイドは、静かに口を開いた。
「幻想郷は、誰のものでもない。そうあるべきなのよ。ここに住むすべての存在が、均しくこの場所を守ってきた。だから、私たちがどうあるべきかは……私たち自身で決める」
その言葉に、場が静まりかえった。
数秒の沈黙の後、リトアニアの大使がゆっくりと立ち上がる。
スーツの襟を正し、彼は毅然とした声で言った。
「その通りです、アリスさん。だが、覚えておいてください。この場所がどんなに独立した精神を持とうと――大国は、欲すれば奪いに来ます」
視線をやや下げると、その瞳に深い歴史の痛みが宿る。
「私たちバルト三国は、ソビエトの名のもとに“解放”され、“保護”され、“併合”されました。祖国の名・祖国の歌を奪われ、国民は自由を失った。……どうか、大国の誘惑に負けないでください。特にロシアと中国に」
アリスは、思わず息を呑んだ。魔法で多くのことを知ったつもりでも、“歴史”の重みは想像を超えていた。
次に声を発したのは、やや離れた席にいた台湾代表だった。
彼もまた、身を乗り出し静かに言う。
「私たちもまた、ロシアをはじめとした大国の影と共に生きてきました。名前を変え、存在を否定され、それでも生き抜いてきた。……だから、言わせてください。大国の誘惑に踊らされないでください。彼らは微笑みながら手綱を引く…我々の民族はそれを痛いほど知っています」
その発言に、中国高官の表情が微かに動いた。
いよいよ殺気が我々に向いた感覚に襲われた
しかし、咲夜さんがさりげなく紅茶を注ぎ直し、紅魔館の雰囲気を取り繕うように振る舞うが、もはや誰の目も笑ってはいなかった。
【幻想郷の外:クレムリン・地下司令部】
「幻想郷の会談は予想以上に進展しているようだな」
プーチン大統領が呟いた。
その背後では、カディロフ、ショイグ、ゲラシモフらが一枚の地図を囲んでいた。
その地図には、かつてのソ連領と幻想郷の位置が書き込まれている。
「我々は出遅れてはならん。オムスク計画の準備は続けろ――まだ始動はしないがな。奴らの動きを見る必要がある」
ゲラシモフが無言でうなずく。カディロフの口元には意味深な笑みが浮かんでいた。
【幻想郷・人間の里】
会談の翌日、幻想郷の人間の里では、NATO兵士と自衛隊員が住民たちと穏やかな交流を行っていた。
子どもたちは迷彩服の兵士たちに興味津々で近づき、記念写真を求める。
村の長老たちは、世界各国の料理を試しながら互いの文化について語り合っていた。
そして――
博麗神社の境内では、霊夢が静かに呟いた。
「…ここまで来てしまったのね、幻想郷も。だけど、守るわよ。私の神社も、人間の里も、妖怪たちの暮らしも」
その隣で、魔理沙がにやりと笑う。
「ま、面白くなってきたじゃないか。幻想郷もついに“外交”の時代か」