【歩み始めた未来へ】
この話は第81章の後、第82章になる前での空白の時間に彼女達とNATO達は何を語ったのかを書いています
夜の紅魔館。
庭には郷土防衛隊用に配備された【ランドクルーザー70】が停車している
かつての静寂が嘘のように、今やその空気にはわずかに緊張感が混じる。廊下の奥、明かりの灯る客間で、フランドールは窓辺に腰掛け、月を見上げていた。
「咲夜……」
「はい、妹様」
優雅な動作で紅茶を盆に載せながら、咲夜がそばに座る。
「……幻想郷って、どうなっていくのかな。私たちは、このままどこに向かうの?」
その問いに、咲夜は少し目を閉じ、深く呼吸した。
「きっと……誰にも分かりません。ただ一つ言えるのは、皆が“変わる勇気”を持ち始めたということ。
妹様もそうです。あの頃のように力を暴走させず、誰かを守ろうとしている。それこそが……未来を築く礎になるのです」
フランドールは静かにうなずき、握った拳を膝の上で開いた。
「……私も、守りたい。今の幻想郷と、ここに生きる皆を」
そのとき、襖の外から声が響いた。
「訓練終わりました!いやー、大変ですね……」
それは郷土防衛隊の戦闘服に身を包んだ美鈴。続いて、小さく笑う声。
「ふふ、お疲れ様」
館の主、レミリア・スカーレットだった。
夜の紅魔館には、確かに未来へと向かう灯火が灯っていた。
そして翌日――。
人間の里の中央広場には、簡素な式典用の壇上が設けられ、その前に整列する者たちがいた。
迷彩服に身を包んだ彼らの肩章には、**「幻想郷郷土防衛隊」**の文字。
その装備は旧式の61式戦車や60式装甲車、64式小銃、75式自走迫撃砲など、自衛隊がかつて実運用したものを、にとりたちと防衛装備庁が改良したものだった。質実剛健、だが戦場に必要な性能を持つ兵器たち。
その式典の中、壇上に立つ一人の男が声を上げた。
「本日、我々は正式に『幻想郷郷土防衛隊』の発足をここに宣言します。
――この地を、この世界を、我らの手で守る。今日という日を、私は誇りに思います」
石破総理の重々しい声が、会場に響いた。
続いて、紫色の和服を纏った女性が壇上に立つ。
「幻想郷は変わりつつあります。閉ざされた世界から、共に築く世界へ。
我々も、外の世界と手を取り合う時です。自衛隊、アメリカ軍、NATO軍……彼らとの協力の先に、新たな未来があると信じています」
そう語ったのは、八雲紫。幻想郷の隠れた守護者が、変化を受け入れた瞬間だった。
やがて、式典が終わると、郷土防衛隊の行進が始まった。
迷彩服の兵たちが列をなし、人間の里の通りをゆっくりと進んでいく。
その歩調は確かな意志を表し、傍らで見守る里の人々からは自然と拍手が湧き起こった。
「ありがとう!」「頼んだぞ!」「気をつけてな!」
誰かがそう叫ぶたび、隊員の目は少し潤み、そして強く前を見据える。
その中にいた一人の青年は、かつてはただの青年だった。
だが今、彼の顔には誇りが刻まれていた。
「……俺たちは、ただの幻想郷の住人じゃない。守る側に立ったんだ」
そう呟いた彼の胸には、青と赤の混じった小さなワッペン――「GDF(Gensokyo Defense Force)」の刺繍が輝いていた。
中谷防衛大臣『歴史は繰り返すものだな』
東部方面隊総監『は?大臣』
中谷防衛大臣『かつて我が国に警察予備隊が発足した時もこのような感じだったのかと思ったらな』
隊員達は自衛隊歌【治安の護り】を歌いながら力強く行進していく
朝田三佐『ここで"治安の護り"を聞くとはなんだか感慨深いですね』
そのころ、山の研究施設では、にとりが仲間と共に試作兵器の改良図面を見つめていた。
「60式・73式装甲車の再設計完了。出力は下がるけど、狭い地形ではちょうどいい」
防衛装備庁の担当官がうなずく。
「幻想郷用に再設計した“第2世代モデル”です。既存の兵器を活かし、平和を守るために」
にとりは唸るように言った。
「いいね……“再利用で未来を守る”ってやつだ」
図面の上、赤い線が未来を示すかのように伸びていた。