【銃声と心の距離』 】
乾いた土煙の中、銃声が響く。
標的までの距離――50メートル。使用されるのは現代式の実銃。
幻想郷からの訓練志願者たちは、今まさに“戦うための基礎”を叩き込まれていた。
銃口を静かに前へ向け、落ち着いた声が響く。
「咲夜、射撃開始します」
そう口にしたのは――十六夜咲夜。
紅魔館のメイド長にして、完璧と称される戦闘メイド。
彼女はサイドフォールディング仕様の**SF92自動小銃(国産の訓練用小火器)**を構え、無駄のない動作で構えた。
指が引き金に触れ――数発、乾いた音が走る。
銃弾は連続して標的の中央に吸い込まれていく。
「……命中、完了」
後ろの自衛官が思わず目を見張る。
「……こ、これは訓練経験者レベルの精度だ……」
咲夜は涼しげに後方へ退き、次の者へと視線を向ける。
自衛官「フランさん、準備は?」
「フランドール・スカーレット! 射撃開始します!」
まるで演劇のように堂々とした声で宣言し、フランはM14ライフルを構える。
彼女の体格からはやや大ぶりな武器だったが、それでも軽々と扱っていた。
ダダダダダン――!
一気に放たれた弾丸は、標的を貫く。が――。
「中心……からは、やや逸れてる……」
訓練教官の評価がつぶやかれる。
だがフランは笑っていた。
「へへっ、いい音だったぁ……! もっと撃ちたいっ!」
咲夜が彼女を見つめ、少しだけ微笑んだ。
女性自衛官「力の加減を覚えれば、貴女は立派な狙撃手にもなれます」
【夕暮れ、訓練場の端にて】
日も傾き、訓練は一時の休憩に入っていた。
霊夢は一人、飲みかけの水筒を持ったまま、静かに空を仰いでいた。
そこへ足音が近づく。
「霊夢さん」
振り向けば、迷彩服姿の青年――朝田三佐がいた。
「あ……朝田さん」
少し気まずそうに笑う霊夢。朝田は丁寧に頭を下げる。
「休憩中でしたか?」
霊夢は少しだけ首を傾げ、聞き返す。
「ええ……朝田さんたちは、休憩しないの?」
「私はまだ大丈夫です。それより、霊夢さんたちこそ大丈夫ですか? 無理は禁物です」
その誠実な答えに、霊夢はしばし沈黙し――やがて、静かに呟いた。
「……知らなかったの。というか、見ようとしてなかったのかも」
「何をですか?」
霊夢はうつむいたまま、言葉を継いだ。
「朝田さんたち……軍人さんが、こうして日々訓練して、厳しい環境に身を置きながら、私たちを守ってくれているってこと。
……入隊して、初めて、痛いほど実感したわ。……ごめんなさい。今まで、深く理解できてなかったの」
朝田は一瞬驚いたように目を見開いたが――やがて、ゆっくりと微笑んだ。
「……大丈夫ですよ。霊夢さんに、そう言っていただけただけでも、私たちの存在意義が報われます」
その言葉に、霊夢の目がわずかに潤む。
青年の真っ直ぐで、誠実なその言葉が、静かに霊夢の心に届いていた。
【模擬作戦訓練:代替市街地ゾーン】
夕刻。模擬市街地――いわば戦場を想定した複合エリア。
咲夜はインカム越しに報告する。
「咲夜准尉からポスト3-2!前方に敵兵を発見。支援を要請!」
その報を受けたのは、山際のブッシュに伏せる白狼天狗・犬走椛。
全身をギリースーツに包み、周囲と同化している。
「ポスト3-2、こちらウッド1-1。これより狙撃を実施する」
傍らには、耳の長い観測手――**鈴仙優曇華院イナバ**がスコープ越しに距離を測る。
「距離500……風向き良好、3ノッチ先です」
椛は無言で頷き、M24 SWS狙撃銃を構える。
呼吸を整え――引き金を引く。
発射音と共に、遠方の敵役ルーマニア兵が倒れる。
「ウッド1-1からポスト3-2へ。脅威を排除、前進をどうぞ」
咲夜の声が返る。
「感謝するわ。正確な一撃だったわ、椛さん」
模擬とはいえ、すべてが実戦さながら。
そこにはもう、「幻想郷の少女たち」ではなく、「戦う者たち」の姿があった。