【戦う覚悟・それぞれの考え】
朝霧が残る幻想郷西部の山間地帯。
天然の地形を生かした訓練場には、迷彩服に身を包んだ
陸上自衛隊レンジャー部隊が整列していた。
整然と並ぶ隊員たちの前に、一人の男が進み出る。
――山森一佐。災害派遣から対テロ作戦に至るまで、多くの現場を経験した歴戦の男である。
彼は部隊を見渡し、静かに口を開いた。
「よし!これより、野外訓練を開始する!」
その声に、霊夢は思わず肩をすくめる。
「ううっ……野外って、またきつそう……」
隣で、魔理沙がにやりと笑った。
「よっしゃあ!やってやろうじゃねぇか!」
そこへ、別の制服を着た人物が歩み寄る。
朝田三佐。
霊夢たちの訓練顧問でもある自衛官だ。
「我々も同行します!」
霊夢は顔を上げた。驚きと、どこか嬉しさの混じった表情で。
「……えっ?ほんとうなの?」
朝田は頷いた。
「はい。体調が悪くなった場合は、すぐに教えてください」
霊夢は少し頬を赤らめながら、小さな声で呟いた。
(あの人が付いてきてくれるんだ……//)
「霊夢三尉? 顔が赤いぜ?」
魔理沙がからかうように言う。
「そ、そんなことないわよ!」
霊夢はそっぽを向き、足早に前へ進んでいった。
【訓練開始:戦場を模した幻想郷】
山間の道を駆け抜ける。
乾いた土を踏みしめ、偽装網をかぶせた拠点を制圧し、敵役の自衛官と模擬戦を繰り返す。
爆発音に似せた信号弾、"M2ブローニング・MINIMI"
重火器の空砲、地面に仕掛けられたレーザーセンサー――
訓練は過酷だった。
だが、その中で霊夢たちは確かに成長していく。
訓練の合間、休憩所の木陰に、マルコフ大佐の姿があった。
黒の野戦服に身を包み、片手に缶コーヒーを持ちながら、彼は霊夢たちに笑いかけた。
「xaxa!同志たちよ!訓練はどうだ? 厳しいか?」
霊夢は額の汗を拭きながら素直に答えた。
「……厳しいです」
マルコフは声を上げて笑う。
「だろうな!最初のうちは皆そう言うさ。
だが、覚えておけ。戦場には仲間がいる。だが最後の最後に自分の命を守るのは、自分だけだ」
魔理沙は笑いながら答えた。
「それくらいわかっています。でも、だからこそ、あたしたちは誰かを守れるようになりたいんだと思います」
マルコフはしばらく無言で頷き、それからぽつりと呟いた。
「ふふ……いい目をしてるな。同志よ」
【幻想郷側の志願者たち】
その日の午後、訓練場に予想外の来客が相次いだ。
「志願したいんだが?」
肩幅の広い鬼――星熊勇儀がやってきた。
「え?あっ、はい!」
隊員が戸惑いながら敬礼する。
その直後、月時計の咲夜が淡々と現れた。
「お嬢様の命令で入隊を命ぜられました。拒否権はありません」
その後ろにいたのは、目を爛々と輝かせた少女――
フランドール・スカーレット。
「きゃははっ!ねぇねえ!銃火器ってどんなの!?
お願い、撃たせてよ!」
さらに萃香が口にひょうたんをくわえながら登場。
「あたしも興味あるね。酒の肴に一発撃たせてよ」
白狼天狗の犬走椛も敬礼した。
「我々も現代戦に慣れておこうと思いまして」
隊員たちはその顔ぶれに冷や汗をかきながらも、彼女たちの熱意に圧され、受け入れを開始した。
【幻想郷住民の反応と懸念】
だが、里ではその動きに不安の声も広がっていた。
「妖怪たちが銃の訓練を……?本当に大丈夫なのか……?」
人里の長老たちは眉をひそめていた。
阿求は記録帳を閉じ、静かに言った。
「幻想郷は変わりつつあります……でも、それが“正しい変化”かどうかは、私たちが見届けなければなりません」
【NATO戦略会議:作戦室】
本陣の作戦室。
NATO各国の士官が集う中、スクリーンに幻想郷各地の情報が投影されていた。
マクファーソン准将は腕を組みながら言う。
「幻想郷における軍事訓練の拡大は、良くも悪くも“転換点”を意味する。
我々は彼女たちを武装化したいわけではない。だが、必要な防衛力は備えさせなければならない」
あるイギリス士官が問う。
「反発の声もある。訓練に参加しない妖怪たちとの軋轢も無視できません」
マクファーソンは静かに頷いた。
「だからこそ、彼女たち自身がこの力を“どう使うか”を示させなければならない。
我々はただ、“選択肢”を与える存在であるべきだ」
訓練は続く。
銃声と汗と泥にまみれた少女たちの中で、“幻想郷という地”が少しずつ現代と交わりはじめていた。
そして、その“交差点”に立つ者たちは、まさに今――新たな覚悟を問われていた。