【コンクリート迷宮ーー地獄への入り口】
かつては人の気配があったのか、それともこの訓練用に造られたのか――
灰色のコンクリートが無機質に並ぶ屋内戦闘訓練施設、通称「キルハウス」。
そこは都市型戦闘、すなわち**CQB(近接戦闘)**を学ぶ場であった。
霧雨魔理沙、博麗霊夢、東風谷早苗、魂魄妖夢――
幻想郷の戦う少女たちが、NATO・自衛隊の将校に連れられ、ビルの内部へと足を踏み入れた。
そこにはレンジャー部隊出身のアレン少佐と、アメリカ陸軍のラミレス大尉、そして数名の隊員たちが待っていた。
「屋内の死線」
アレン少佐は壁に作戦図を広げ、指を走らせた。
「ここではCQB(Close Quarters Battle)、それにCQC(Close Quarters Combat)、つまり屋内での銃撃と格闘戦を体験してもらう」
霊夢が眉をひそめる。
「CQB?なんの呪文よ、それ」
「現代戦では非常に重要な戦術です」と、早苗が口を挟む。「狭い場所での戦闘…ドア越し、部屋の角、遮蔽物の影…そこから突然飛び出す敵への対応。至近距離での応戦や、ナイフによる白兵戦なども含まれます」
ラミレス大尉は思わず笑った。
「素晴らしい解説だ、早苗准尉!その通りだ!今回はこの“キルハウス”を制圧してもらう。標的はパネルと、自由ロシア軍の協力によって、本物の兵士たちがゴム弾で応戦してくる。奴らは戦場の猛者たちだ…容赦はしないぞ」
妖夢がぎょっとした顔をしたが、紫の弟子である霊夢は動じなかった。
「なるほど、手加減なしってことね」
「シュルツ中佐、制圧行動を開始!」
「まずは見本だ」とナイジェル中佐が言った。
ドイツの特殊部隊**KSK(Kommando Spezialkräfte)**が、シュルツ中佐の号令のもとで突入を開始する。
彼らは一糸乱れぬ動きで隊列を組み、声もなく、ドアを蹴破り、煙幕を投げ込み、電光石火の速さで部屋を制圧していく。
その中にいたのは、自由ロシア軍のマルコフ大佐率いる実戦経験者たち。
ガム弾とはいえ、容赦ない迎撃を行う。
「目標アルファ制圧!負傷者5名、死亡2名!」
シュルツ中佐の声が響く。全て訓練とはいえ、その報告に霊夢たちは息を飲んだ。
「2人も…死んだことになってるなんて」
霊夢が呟いた。
「実戦なら、3秒の油断が命取りになる」と、ナイジェル中佐が冷静に告げた。「君たちも覚悟して挑め。次は君たちの番だ」
【幻想郷外伝:月の都・観測報告】
場所は月面基地。
白く光る室内で、綿月依姫と八意サグメがスクリーンに目を向けていた。
映し出されているのは、幻想郷内部に設置された衛星観測端末の映像。
そこには、霊夢たちがキルハウスで訓練を受ける様子が映されていた。
「彼女たちが、近接戦闘を……」依姫の眉がわずかに動いた。
「妖怪や人間に、軍の教義と実戦が浸透し始めている」と、サグメが静かに言う。「博麗の巫女が人を撃つ時代が来るとはね」
依姫はため息をつきながらも、目を離さなかった。
「私たちは幻想郷が“箱庭”であり続けることを望んだ。だが今、その“箱庭”は他国の軍事訓練場と化しつつある。…月の民として、私はこの事態を無視できない」
「それでも、彼女たちは“自衛の意志”を手に入れようとしている」とサグメ。「力と責任は表裏一体。見極めるべきね。幻想郷の民が、本当にその覚悟を持っているかどうかを」
【続く訓練:少女たちの突入】
訓練用の無線が鳴る。
霊夢たちがヘルメットを被り、ボディアーマーを着て、銃を構える。
アレン少佐が指示を飛ばす。
「突入ルートは右側ドア!制圧目標は第三フロア!標的の識別を忘れるな!標的パネルには民間人役も混じっている!」
「了解!」
霊夢が勢いよく返答する。
ドアが蹴破られ、少女たちの戦場が幕を開けた――