【幻想郷・合同射撃訓練場ーー銃を手に取るということ】
「東風谷早苗、射撃開始します!」
彼女の声は澄んでいたが、緊張の色は隠せなかった。
64式を握る両手には微かな震えがあり、息を呑んで射線を見据える。
ナイジェル中佐は黙して頷き、ラミレス大尉が記録装置を構える。
アレン少佐は腕を組み、じっと早苗の動きを観察する。
「…いきます!」
早苗は深く息を吸い、1発目を放つ――
――パン!
標的に命中。だが少し右に逸れていた。彼女はすぐに呼吸を整え、次の射撃に移る。
慎重だが、着実に、的を絞り込んでいく。
やがて、訓練用の標的にいくつも“命中”の赤ランプが点灯した。
「状況終了します!」
ナイジェル中佐は歩み寄りながら笑った。
「よくやった、早苗准尉。緊張に勝ったな。射撃姿勢も安定していた。だが…弾薬の管理に注意を。最後、指が少し力んでいたぞ」
「はい!ご指導ありがとうございます!」
魔理沙が拍手し、霊夢が肩を軽く叩く。妖夢やイナバも満足そうに頷いた。
その姿に、朝田三佐は内心で呟いた。
――(この子たちは、本当に“戦える住人"になりつつある……だが、それは本当に良いことなのか――)
【永遠亭・内部協議】
「幻想郷が“武装する”というのは、つまり……私たちにも“戦え”ということでしょうか?」
鈴仙が、緊張した面持ちで永琳に問いかける。
「戦うのではなく、“護る”という姿勢。…でも、それは必ずしも無害という意味じゃないわね」
永琳は冷静に答える。
輝夜は少し興味深げに笑った。
「月の民が地上の軍備を危険視するのも分かるわ。…でも私は少し期待してるのよ。幻想郷が変われるかもしれないって」
八意永琳は黙したまま天井を仰いだ。
「……この変化を監視する者として、私は立ち会い続けるつもりよ。全ての結果に責任を持つ者として」
【紫と石破総理大臣の戦略会議(東京)】
場所は総理官邸の地下防衛会議室。
紫は、幻月通信経由で接続された専用回線を通じて、日本の総理・石破茂と会話を交わしていた。
石破は目を細めながら、モニター越しの紫を見据える。
「……つまり、幻想郷内部に“自治防衛意識”が芽生えていると?」
「ええ、総理。彼女たちは、ただ守られる存在から、“守る者”になろうとしています。これまでのように、人間や妖怪が感情的に争うのではなく――戦術、組織、覚悟を持って、現実と向き合い始めているのです」
「我が国としては、幻想郷の安定が何より重要だ。だが、武力化が進むことで、月勢力や近隣国が懸念を抱くことも事実。…現に米中双方から接触の申し入れが来ている」
「だからこそ、私は申し上げているのです。“管理”ではなく、“共存”を。幻想郷の民が、自らの手で秩序を築くことは、外交上も極めて大きな意味を持ちます」
「あなたが幻想郷の秩序維持に責任を持つというなら、日本政府としても軍・NATOとの連携訓練を支援しよう。ただし、その過程は慎重に。幻想郷の意志を無視しないように」
紫は微笑む。
「ええ。幻想郷は、もはや“隔離された夢”ではない。現実と向き合う、覚悟ある世界なのです」
【妖怪の山・神社・天狗の議論】
守矢神社では、諏訪子と神奈子が社殿で膝を突き合わせていた。
「早苗が…銃を持ったのね」
「彼女の目が、以前より鋭くなっていた。…ただの信仰じゃなくて、“責任”を感じてる。今の幻想郷に必要なのは、神様より兵士かもな」
一方、妖怪の山では天狗たちの集会が開かれていた。
「人間たちが、"武器"を持ち始めた。これは情報統制の観点からも重要だ」
「いや、幻想郷の“内なる秩序”が形成される好機だ。天狗の任務は“監視”ではなく、“調整”であるべきだ」
そして文は、記者として現場を奔走しながらも、時折空を仰いで呟いた。
「幻想郷は、今確かに歴史を作っている……それを記すのが私の仕事だ」