射撃訓練場ーー緊張の1発
射撃訓練場:13:55分
静まり返った射撃練習場。その空気は緊張と期待で満ちていた。
――幻想郷で初めて行われる本格的な戦術訓練。戦いの覚悟を問われる時が、今まさに訪れたのだ。
前に立ったのは、かつての従軍経験を持ち、今は幻想郷郷土防衛隊の一員として任命されたイナバ三曹。
「イナバ三曹、射撃開始します!」
力強い声と共に、彼女は前方の標的に狙いを定める。
その動作には迷いがなかった。かつて戦場に身を置いた者にしかない静けさと正確さがそこにあった。
――バン、バン、バン……
銃声が響くたびに、標的の中央に次々と穴が穿たれていく。
「やるじゃない」
霊夢が感心したように呟く。
「さすがだな」
魔理沙の言葉にも、少し羨望が混じる。
「次は私……」
妖夢が拳を握りしめる。その肩に手を置いたのは、アメリカ陸軍のラミレス大尉だった。
「そう弱気になるな、妖夢伍長。強気でいけ。お前の剣技があるなら、射撃も応用できるはずだ」
「は、はい……!」
後ろから幽々子が微笑みながら「頑張って」と声をかける。
射撃を終えたイナバが銃を下ろし、一礼する。
「撃ち終わりました!」
射撃成績は文句のつけようもない。訓練官たちは口々に評価を述べ始めた。
「見事だった! イナバ三曹!」
ナイジェル中佐がにっこりと称賛の声を上げる。
「ありがとうございます!」
イナバはやや頬を紅潮させながらも、凛と答えた。
「素人じゃないな……」
SAS(イギリス陸軍特殊空挺部隊)のスターリング少佐が唸るように呟く。
「あの動き、呼吸、照準……明らかに実戦を知っている者の射撃だった」
彼は鋭く目を細めた。
ドイツ連邦軍のハルトマン少佐も頷く。
「非常に訓練されていた……どこかの特殊部隊にいたとしか思えんな。幻想郷にこんな人材がいたとは」
皆がその腕前に舌を巻く中――
一歩離れたところで、その様子を静かに見守っていたのが八雲紫だった。
ゆっくりと口を開く。
紫の独白――「幻想郷を守る覚悟」
「……幻想郷が、自分の手で自分を守る……まるで夢みたいな話だったけれど、こうして現実になっているわ」
その声は静かでありながら、確かな重みを帯びていた。
「私たちは長い間、外の世界から閉ざされ、平穏に甘んじてきた。でもそれが、永遠に続く幻想だと、皆どこかで気づいていたはず。いつか誰かが、この境界を破って入ってくる。力もなく、覚悟もなければ――その時、幻想郷はただの“標的”になる」
紫は、訓練を見守る少女たちを見つめる。霊夢、魔理沙、妖夢――皆が、少しずつ変わり始めている。
「覚悟を持つということは、武器を持つこと。戦うということは、血を流す覚悟を持つということ……だけど、それでもなお、守りたいと思えるものがあるからこそ、人は剣を取るのよ」
その言葉に、文が無言でペンを走らせる。
誰もが、紫の言葉の意味を静かに受け止めていた。
幻想郷が、いま“独立した一つの意思”を持ち始めていた。