「揺らぎの種 ― ヴェルニエフの策動」
「揺らぎの種 ― ヴェルニエフの策動」
◆ ロシア連邦軍統合戦略司令部地下会議室(ノヴォシビルスク近郊)
壁に囲まれた無機質な地下会議室。室内の空気は重く、緊張が張り詰めている。
長いテーブルの先、ヴェルニエフ大将がゆったりと椅子に座り、報告を受けていた。
将校(やや緊張しながら)
「……確認されました。正式にNATOが幻想郷内部への駐屯を決定。米軍と自衛隊との三者協力体制が動き出すとのことです」
ヴェルニエフ大将(目を細め、口元をわずかに歪める)
「……何? そうか。なるほどな……」
(数秒沈黙の後、低く笑う)
「いや、むしろ面白くなってきたな」
将校(困惑気味に)
「……はっ?」
ヴェルニエフ大将(椅子にもたれ、天井を仰ぐように)
「何事も順調に進みすぎては面白くない。奴らが一歩進めば、我々も一歩踏み出す。
計画を“動かす価値”があるということだ……そうだな、“魔理沙計画”に入る前に――少々揺さぶってやろう。NATO側をな」
(手元の地図を広げる)
「最初の標的は、ここだ。“地下間欠センター”。幻想郷のエネルギー供給拠点だな。確か……小型の核融合炉が設置されていると聞いている」
将校
「はっ、確かに。河童連合と一部の人間技術者が運営している模様です。自衛隊が管理協力しているとの報も」
ヴェルニエフ大将(ふっと笑い)
「よろしい。ではこうしよう――電力会社職員に偽装した技術工作員を派遣。
ごく小さな“技術トラブル”を演出する。情報漏洩か、誤作動か……なんでもいい。
小さな混乱は、“大きな不安”に繋がる」
(テーブルの上にあるファイルを手に取りながら)
「混乱が生じれば――“市民運動”が起こる。それに火をつけるのは我々の協力者……革マル派の活動家たちだ。彼らを使い、“平和的なデモ”を“過激な扇動”に変えるのだ」
将校(驚きつつ)
「民衆を使われるのですか? 幻想郷内部はまだ……」
ヴェルニエフ大将(静かに遮って)
「幻想郷も所詮は“人の集団”だ。どんな理想郷でも、不安には抗えん。
“何かが変わる”ときほど、扇動はよく効く。正義や反対運動の仮面を被せてやれば、騙される民衆などいくらでもいる」
(地図に赤鉛筆で印を付ける)
「騒ぎが大きくなれば、**“NATOは幻想郷を支配しようとしている”**という印象を流せる。
幻想郷住民の信頼は揺らぎ、米軍は対応に追われ、自衛隊は板挟みに……」
将校
「……その混乱の間に、“魔理沙計画”へと移行するのですね?」
ヴェルニエフ大将(ニヤリと笑う)
「当然だ。“盾”を揺らしておいてから、“心臓”を奪う。古典的だが、効果は抜群だ。
……だが慌てるな。今はまだ“種を蒔く”段階だ。発芽するまでしばらく様子を見るとしよう」
将校
「はっ、準備を進めておきます」
◆ ナレーション(章末)
幻想郷に築かれようとしている“防衛と信頼の盾”――
その裏で、一つの黒い影が動き出していた。
情報戦の火蓋は、すでに静かに切られていたのである。