【定義される幻想】
イラン武器商人事件から数日が経過した幻想郷では、住民たちの間で深刻な対立と分断が起こり始めていた。
一部は「外の世界と協調し、自らの安全と立場を確保すべきだ」と主張し、
他方は「幻想郷の独自性を守るべきであり、外部の影響は最小限に抑えるべきだ」と警鐘を鳴らす。
その中心となったのが、**「幻想郷は国なのか、地域なのか」**という根本的な問いであった。
◆博麗神社の集会
永遠亭の一角から帰ってきた紫が、博麗神社に集まった主要住民たちと会話を交わす。
八雲紫「外の世界は“幻想郷”という存在を法的に定義しようとしているわ。彼らはこう言っていた。
『幻想郷は地理的には日本の領土内にある』『しかし住民は日本国民ではない』……これはつまり、属領か、保護領か、あるいは……**“民族自治区”**とでも見なしているということよ」
霊夢「そんなの、勝手に決めないでほしいわ。私たちは……別に国を作ったつもりはない。けど、干渉はしてほしくない」
天子「干渉されたくないなら、せめて“中立”を宣言すべきなんじゃない?」
文「幻想郷は“幻想を信じる者のための場所”……それを外の論理で定義すること自体が危険です」
レミリア(皮肉げに)「でも“誰にも属さない”って言い続けていたら、いつか本当に誰からも守ってもらえなくなるわよ?」
◆米国代表 ハリス大使の発言(国際会議)
数日後、衛星回線を通じて行われた**国際安保会議(幻想郷連絡部会)**にて、アメリカ代表ハリス大使が発言する。
ハリス大使(表情を崩さず)
「アメリカ政府の公式見解において、幻想郷は日本の主権下にある隔離地域であると見なしています。
従って我々は、幻想郷を**日本政府の保護下における“特別自治地域”**として扱うべきであると考えています。
――なお、幻想郷の住民に対しては、難民条項または国際保護対象としての配慮が必要だとの意見もあります」
その発言に、画面越しの紫と依姫の表情がわずかに曇る。
紫「あなた方の“定義”の中に、幻想郷という文化と精神の自立性は含まれているのかしら?」
◆月の勢力との本格交渉(回線越し)
神社内の別室、月の勢力との定期通信。
綿月依姫・永琳・輝夜が出席。NATO・自衛隊代表、幻想郷代表(紫・永遠亭・霊夢など)が同席する。
綿月依姫(静かに)
「“結界”は元来、干渉を防ぐために築かれたものでした。しかし今や、それが逆に『幻想郷とは何か』という問いを呼び込んでしまっている……。
私たちはそれに向き合わなければならない時期に来ているのかもしれません」
八意永琳「幻想郷は“外の論理”から解放されたからこそ存在している。
そこに国家・権力・軍事の論理が入り込むなら、それはもはや幻想ではない……“現実に吸収された文化的保存区”です」
アレン少佐(慎重に)「我々も、そこには細心の注意を払っています。ただ……幻想郷を“理解”しようとする試みを拒否されれば、外交的にも立場が難しくなります」
◆幻想郷住民たちの分裂
パルスィ「幻想郷が“国家の論理”に組み込まれるなんて冗談じゃないわ」
慧音「でも……外の世界との完全な断絶は、もはや幻想では済まされない。歴史を忘れたくても、世界は忘れてくれないわ」
阿求「中立を保つには“力”も“信頼”も必要です。幻想郷には……それがあるでしょうか?」
魔理沙「あたしは信じたい。戦ってばっかじゃなくて、向き合おうとしてる人間もいるってことをさ」
◆章末・まとめ(ナレーション的)
幻想郷は“幻想”でありながら、今や現実の地政学の中に立っている。
その姿を、どう定義し、どう守るのか――それはもはや一部の住民や軍人の問題ではなかった。
そして、その答えを出す前に……
“ロシアの計画”が静かに、そして確実にその影を落とし始めていた。