14章「第3.5次冷戦:幻想郷と現実の議論」
【紅魔館・迎賓大広間】
その静寂は、重たい足音によって破られた。
警衛官
「……中華人民共和国外交部、特使団到着、入られます!」
銀の盆に音もなくティーカップを置いた十六夜咲夜が一瞬、わずかに眉をひそめる。
重厚な赤い扉が軋み、複数の中国高官が姿を現す。濃紺のスーツ、無表情な顔。
彼らの視線が部屋の中を鋭く舐めるように走ると、空気がわずかに引き締まった。
それを見たNATO代表団の一人が隣のフランス外交官に低く囁く。
「うむ……やはり来たか」
フランス代表は片眉を上げ、頷きながら「問題は、彼らが“誰の後を追っているか”だな」と返した。
彼らが着席すると、中国特使の一人が静かに口を開く。
「中華人民共和国としても、この“幻想郷”の安全と秩序に関心を持っている。文化的交流と地域の安定化に向けた協力を提案したい」
表向きは柔らかく、だがどこか“踏み込む”気配が漂うその発言に、会場は一瞬張り詰めた沈黙に包まれる。緊張と心臓の鼓動が強くなっていく…
日本外務副大臣が答えた。
「日本政府は幻想郷を独立した文化的共同体として尊重する立場だ。武力・政治的介入は一切想定していない。これは日米欧、共通の原則です」
後方で静かに腕を組むマクファーソン准将の目が、
中国特使団を鋭く見据えていた。
その数分後――
ロシア語の発音で、別の入室が告げられた。
「ロシア連邦、特別軍事代表団到着、入られます」
厚手のロングコートを着たロシア軍将校たちが入室。
胸には在ロシア陸軍大佐の階級章。
彼らの登場に、米代表団の一人が立ち上がろうとするのをマクファーレン中将が制した。
「まだ“交戦”しているわけじゃない、な?」
その言葉に、アメリカ大使は苦笑しつつ、会談の進行を続けた。
だがその場にいた誰もが理解していた――これはただの外交ではないと。
【クレムリン・大統領執務室】
分厚い書類と巨大な地図、そして深紅のカーテンが覆う部屋で、プーチン大統領がゆっくりと椅子から立ち上がった。
周囲にはショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長、カディロフ首長らが顔を揃える。
「……“幻想郷”は、我々にとっての新たな戦略的要地となり得る」
「計画はできているか?」とゲラシモフ。
プーチンは地図上の“幻想郷”と呼ばれる新たな領域に指を置き、短く命じた。
「オムスク計画を動かせ。だが、まだ静かにな。
西側に悟られるな」
その目は冷たく、だが明確な意志を湛えていた。
【CIA本部・ランリーポイント】
アメリカ、バージニア州。
CIAの監視モニター室では、衛星写真とシグナルインテリジェンスが煌々と点滅していた。
アナリストの一人が目を細めてつぶやく。
「ロシアのヴォロネジ基地とノヴォシビルスク工科大学…異常な電波が発信されてる。これは…ザリヤ移動ゲート装置の起動テストか?」
チーフが立ち上がり、データを確認すると顔色を変える。
「コード名“ZARYA”…また動き出したか。連中、まだ諦めていないぞ…国防総省に連絡しろ!」
【幻想郷・人間の里】
その裏で、幻想郷では別の空気が流れていた。
子供たちがNATO兵士とサッカーをし、若い自衛官が巫女・霊夢と共に神社の修復を手伝っていた。
魔理沙とアレン少佐が焚き火を囲んで魔法と科学・軍事
の話を交わし、ラミレス大尉は天狗の文からインタビューを受けていた。
幻想と現実、そして平和と戦争の狭間で、人々は**“共にあること”の意味**を模索していた。
だが、裏側では動き出すものがある――
やがて、この静けさは長くは続かないことを、皆が本能で察していた。