第82章:【目に見えない国境】
――イラン武器商人事件を受けて
イランの港で起きたアルージャ号爆発事件は、瞬く間に外の世界を震撼させ、そして幻想郷にもその余波が届いていた。
幻想郷の一角、博麗神社裏手に設けられた臨時の会議場――その中には、各地の住民たちと西側の代表団が一堂に会していた。
各々の顔に浮かぶのは、困惑、不安、そして静かな決意――。
◆幻想郷住民たちの声
にとり「無人機があんな戦い方をするなんて……。あれじゃもう、兵士すら必要ないってことか?」
萃香「信じていいのかねえ、外の世界の“正義”ってやつをさ……」
椛「私は……幻想郷の中だけで暮らせるなら、それが一番だと思ってました。でも、もう……」
神奈子(腕を組みながら)
「今はまだ、外の世界での出来事だ。しかし……次に狙われるのが幻想郷じゃない保証はどこにもない」
場内に重い沈黙が降りたその時、一人の男がゆっくりと立ち上がる。
◆マクファーソン准将の言葉
マクファーソン准将「……少なくとも、私は信じている。あなた方が理性と勇気を持つ人々であることを。
確かに、外の世界は混乱と争いに満ちている――だが幻想郷も、もはやその渦の外にはいられない。
この世界は繋がり始めている。我々はその接点にいる。ならば、選ぶしかない。“壁”の中に閉じこもるのか、共に歩むのかを」
その静かな声は、しかし確かな重みを持って広がった。
朝田三佐が続いて前に出る。
朝田三佐「皆さんの不安は、痛いほど理解できます。
ですが、幻想郷はすでに“国際社会の注目下”にある。
もはや見て見ぬふりはできません。これは、“幻想”と“現実”の壁が、少しずつ消え始めたという証でもあるのです。
……だからこそ、我々は共に、未来を選び取るべきです」
◆反応と連帯
場内に微かなざわめき。
その中、紅魔館の主が静かに言った。
レミリア「……あなた方は、少なくとも信用しているわ」
スターリング少佐「ありがとうございます……お嬢様」
ナイジェル中佐(小さく苦笑して)
「歴史的に見れば、我々イギリスこそが“一番信用ならん”国と言われそうですが……」
会場に一瞬だけ笑いが生まれる。しかしすぐに表情は引き締まった。
◆月勢力との初会談
博麗神社の奥、特設回線が開かれる。スクリーン越しに現れたのは月の使者――綿月依姫、蓬莱山輝夜、八意永琳。
そして紫が同席している。
綿月依姫(静かに)
「……幻想郷を守ってきたのは“結界”という名の境界線だった。だが、それは同時に外の世界との断絶でもあった」
八雲紫「結界とは、心の壁でもあるわ。必要な防衛と、不要な隔離――その違いを、私たちは見極めなければならない」
永琳「外の世界が変化する中、月も、幻想郷も、もうかつての“孤立”を続けられないのよ」
◆各国代表たちの反応
短い沈黙のあと、各国代表たちが思い思いの言葉を口にしはじめる。
フランス軍将校「……これは、我が国にも通じる話だ。かつてのアルジェリアとの境界線を思い出す」
イスラエル軍人「目に見えない国境……そうだ、ゴラン高原を思い出す」
アメリカ陸軍士官「国家と地域、宗教と理想。それらを分ける線が、時に人を殺すことがある」
イギリス外交官「ああ……ベルファストの壁を忘れてはならないな」
ドイツ外交官「ベルリンの壁もそうだった……建てるのは簡単、壊すのは血がいる」
ギリシャ外交官「我々にはキプロスのグリーンラインがある。半世紀以上、解決されていない線だ」
韓国代表「我々には……38度線、DMZがある。南北を隔てる、未だ終わらぬ戦争の名残だ」
幻想郷に吹く、変化の風。
目に見えぬ境界は、いま初めて「議論」という名の光を浴び始めていた――。