【亡国へのプレゼント】
――幻想郷・外縁、FOGL前哨基地・地下留置室
錆びた鉄扉の向こう。
“ヴィクトル・ジュラパフ”は、身じろぎもせずに座っていた。
頬に深く刻まれた傷痕、古いソ連軍式の懐中時計、何も語らずにいた男が、ゆっくりと口を開いた。
「……“赤い月”は、降りるのだ。何度でも、何処にでも。」
机の前に座るのはマクファーソン准将、傍らにCIAの女性分析官トンプソン、そして背後にFOGLのアレン少佐。尋問が始まった。
「“赤い月計画”――その全貌を話せ」
「ふん……貴様らはまだ幻想郷を国家として見ている。だがこれは“地政学”ではない、“民族感情”を煽る武器の火種だ。
銃を持った妖怪は“脅威”となり、武器を持たぬ人間は“報復”を叫ぶ。…そこに国旗も条約もいらん。殺し合いの“動機”があれば、十分なのだ。」
「……誰の命令だ、誰がこの計画を動かしている」
「私は指揮官ではない、“郵便配達人”にすぎん。だが――“資金”はベラルーシの軍事財閥、“輸送網”は黒海ルート、そして“保証人”は……あのベラルーシ代表団の、“ロダニア・ヤコビッチ”。」
マクファーソンがトンプソンに目配せした。
「コード名“ミラージュ”……」
――幻想郷・永遠亭、臨時医療本部
「ウイルスは沈静化に向かってるわ。問題は“次”」
そう言ったのは永琳。
アリスとパチュリーが並んで経過報告に目を通す中、一報が届いた。
「“武装した妖怪”が確認された。
地点は迷いの竹林、目撃者によれば“鬼のような女”がRPGとマカロフ拳銃を持っていたと。」
アリスが小さく舌打ちした。
「……始まったわね。“武器の意思”が動き出した。」
――博麗神社・中立協議会場
「我が国、スイスは幻想郷を**“中立特区”として国際条約に準ずる地位**を与える提案を正式に提出する」
スイス代表団のエミール・ファン・ローエは、静かに切り出した。
紫は扇子を閉じ、霊夢の隣で応える。
「幻想郷は国家ではありません。“境界”に守られた土地――ですが、侵されれば、境界は壊れる。
つまり……**外の争いを“持ち込ませない”ことが、我々の望む“平和”**です。」
そのとき、場の空気を揺るがす報告が入る。
「ベラルーシ代表団のヤコビッチ特使が所在不明になりました。代表団全体が外部との連絡を遮断中。」
――幻想郷・魔法の森・廃村跡
朽ちた蔵の中、誰もいないはずの場所に、黒いスーツの男たちが集まっていた。
一人、眼鏡の中年男が衛星電話を取り出す。
「……こちら“ロダニア”。作戦を“次の段階”に進める。対象は“人間の村”、武器は既に配置済み。」
男は、ゆっくりと顔を上げる。
ベラルーシ特使、ロダニア・ヤコビッチ――“赤い月計画”の 真の黒幕。