【霧の真実】
――米国・ワシントンD.C. 国防総省 本庁舎 ペンタゴン・D区画地下1F 特別会議室
部屋は重く沈んでいた。
米陸軍参謀総長、国家情報長官補、NSA、CIA、そして国防長官が顔を揃える中、一人の男の顔写真が大型モニターに表示されていた。
「ヴィクトル・ユーリエヴィチ・ジュラパフ。ロシアGRU“Zaslon”分隊出身。4年前より“カーチス少佐”として米陸軍人事記録に潜伏。3回の昇進審査を通過、2度のNATO派遣任務に参加……およそ不可能な“深度”での潜伏工作でした。」
国防長官が低く、苛立ちを抑えながら言った。
「……この件、どこで防げた?」
「陸軍情報部のCI課のミスです。諜報フィルタにラトビア国籍の前歴が偽装されていた時点で、我々の審査がすり抜けた形に――」
「ミスでは済まされん。NATOにまで混乱が波及してる。幻想郷への展開任務は極秘だったはずだ!」
静かに手を上げたのは、CIA対ロシア課の分析官だった。
「“奴”が幻想郷にいた目的は二つ。ロシアが散布した“火種”を監視し、必要なら“点火する”こと。そして幻想郷を“無秩序化”するきっかけを作ること。」
「つまりアル・ハッサンとの連携も……」
「ロシア側の代理戦略です。“赤い月計画”――内戦を誘発する、古い手口。」
場に沈黙が落ちた。
最後に国防長官が低く言い放つ。
「ジュラパフはCIA主導で移送しろ。幻想郷内の米軍部隊からも責任者を一時召還させる。」
――幻想郷・旧都、鬼の町 路地裏
土塀の裏から、長い箱が見つかった。
それは保護された貧民の鬼の少年が使っていた古い物置だった。中に入っていたのは――AK-74M フルセット、弾薬3マガジン付き。
「……なんだこれは……」
現地にいたのは陸自のNBC偵察隊の小隊長。毒ガス残存調査中に偶然見つけたものだった。
「銃、ですか? こんな場所に?」
「いや……“こんな場所だからこそ”だ。」
数百キロ離れた妖怪の山、村落近郊――
そこでも空薬莢と無名ブランドの弾帯が見つかっていた。輸送ルートは不明、だが地図に点在するように“武器”の痕跡が現れ始めていた。
その事態に、博麗霊夢が動く。
――博麗神社
霊夢はマクファーソン准将と並んで立っていた。
手には、回収された「銃火器配置マップ」――幻想郷全域に赤い印が広がっていた。
「これは……まるで“意図的”に撒かれてる……」
「つまり、誰かが人間と妖怪の緊張を高めるように“火種”をばら撒いた。それがアル・ハッサンの狙い……いや、“その上にいる連中の意志”か」
霊夢の拳が震えていた。
「これは、もう“幻想郷の問題”じゃない。“外の世界”が幻想郷を“戦場”にしようとしてる。私たちは、ここで止めなきゃいけない――」
「君だけじゃない。FOGLも、俺たちもいる。……ただし、“火種”はすでに撒かれた。次は、誰が引き金を引くかだ。」
准将の言葉に、霊夢はゆっくりと頷いた。
「なら、私はその“引き金”を壊してみせる。」