【真実と沈黙】
霧の湖・西岸部、夜明け前
UAZのタイヤ痕が湿地に伸びる。その先には、黒いハイラックスの車列が静かに潜む。
その荷台には奇妙な“ドーム状装置”が搭載されていた。円筒に近いフォルム、回転式のアンテナ群。そして一度稼働すると、周囲300mの通信を完全に遮断する**短距離型ジャミング装置【KARB-3】**だった。
アメリカ陸軍の観測MQ-11ドローンは、そのジャミング波によりすでに失われていた。
だが、マクファーソン准将は退かない。
「FOGL・全分隊展開。アル・ハッサンのジャミングが始まった。これは、最終段階の証拠だ。」
准将の命令とともに、ステルス仕様【MH-60】
多用途ヘリコプターから多国籍特殊部隊FOGLが降下。彼らの背後にはGhost Armyの重装班も続く。
幻想郷西部・境界線付近
突如、銃声が鳴った。
「警察です!武器を捨てろッ!!」
声の主は、長野県警察の特捜機動部隊。ジャミングにより通信が遮断されながらも、現場に居合わせた警官たちは、イラン系の武装グループと乱戦に入っていた。
車列から飛び出した黒服の男が、所持していたAK-101で発砲。
警察隊は、ベスト越しに弾を受けながらも訓練通りに反撃、最前線の一人が手錠で一人を取り押さえることに成功。
だが、戦いの中に紛れて“逃げた者”がいた。
公安調査庁 東京本庁・特別監視課
「これは……“こいつ”の通信記録にあった日本国内の連絡先だ……」
公安捜査官が見せたのは、日本共産政党系議員との過去の献金記録。
かつて革マル派と接点を持ち、現在も議員秘書として残っていた男が、資金洗浄に関与していた可能性が浮上した。
「……議員本人ではなく、“選挙事務所”を通した金の流れか」
「だが、これで十分だ。レッドパージ作戦、次段階へ移行する。」
幻想郷・博麗神社 本殿
激しい雷雨の中、博麗霊夢は地図と資料を見つめていた。
「幻想郷に……銃が持ち込まれるってことの意味、分かってる? これは、“信仰”の崩壊よ。」
アリスが頷く。「幻想郷は“非現実”を維持するために、現実の破壊的な象徴を拒む。それが戦争の武器なら、なおさらよ」
霊夢は静かに言う。
「けど、もう拒めない。……だったら、止めるしかないじゃない。力じゃない、“境界”で。」
その時、魔理沙が駆け込んでくる。
「パチュリーと永琳の協力で、感染したFOGLの隊員の検査結果が出た!」
「エボラじゃなかったの!?」
「インフルエンザA型。しかも弱毒性。」
「……罠だったのね。あのバイオケースも、“生物兵器が拡散したと錯覚させるための道具”。」
永琳が通信で言う。
「既に幻想郷内のワクチン配布は完了。霊夢、**“恐怖”に負けないで。あの男たちは、“銃”と“病”のどっちも“恐れ”として使ってきたのよ。」
幻想郷外縁部・森林地帯
FOGLとGhost Armyは、ついにアル・ハッサンの本隊を包囲。
夜が明けきる前、マクファーソン准将は最後の命令を下す。
「合図と同時に突入せよ。生かして捕らえろ。奴は“情報の倉庫”だ。」
しかし、車列の最後尾から逃走する者がいた――
FOGLのラミレス大尉が確認する。
「後部のランドクルーザー……あの後ろ姿、軍服がアメリカ式……だが階級章が違う。…待てよ、こいつは――」
「カーチス少佐……じゃない。……あいつはビクトル・ジュラパフ!」
“ロシアGRU工作員”が米陸軍将校として潜伏していたのだった。
幻想郷・夕刻
アル・ハッサンは拘束された。
ジャミング装置は破壊され、車列も押収された。
幻想郷は、いったん守られた。しかし霊夢は、誰にも聞こえぬ声で呟く。
「……次は、“誰が”銃を持つか、ね」