【オメガ・サプレッションーBC兵器の存在】
幻想郷・博麗神社地下指令所
夜の帳が降りる中、空気はいつになく重苦しかった。
朝田三佐は防衛省極秘の報告書を静かに読み終えると、テーブルに置いた。
「……情報、確定だ」
公安調査庁・加藤室長が言葉を継ぐ。
「アル・ハッサンが持ち込もうとしていたのは……エボラウイルス・ザイール株。アフリカ中部で死者数千人を出した、実戦級の生物兵器だ」
その場にいた者全員が沈黙する。
幻想郷の住民には免疫が存在しない。
一度でも感染が拡大すれば、あっという間に“幻想郷そのもの”が死の谷と化す。
「ウィルス運搬体は“特殊な金属密封容器”で保存され、幻想郷内部の協力者によって“魔法の森”の廃屋に隠されている」
霊夢が表情を硬くしながら問う。「……誰がそんなことを?」
加藤室長は言った。
「それは――日本国内の極左関係者、革マル派と共産党系の一部議員が接触した、幻想郷内の“匿名の研究者”。
彼らは“幻想郷の魔力と外界の科学技術を融合すれば、強化型生物兵器が作れる”という妄想を抱いていた」
朝田三佐は憤りを隠せなかった。
「兵器ではない……ただの虐殺装置だ。これは軍事ではない。“抹殺”だ」
FOGL作戦室(地下第七サイト)
ブラックオプスFOGLの中でも最も秘密裏に行動する**“感染拡散阻止班:ゼロ・スレッド”**が出動を命じられた。
作戦名:《オメガ・サプレッション(Ω-Suppression)》
任務内容:
容器の確保
感染者の有無の確認
ウィルスを持ち込んだ人物の特定と拘束
必要に応じて――「対象区域の完全封鎖および消毒(焼却)」
指揮官ジャレット中佐が語った。
「敵は狂っている。感染兵器を幻想郷にばら撒いて、混乱を利用しようとしている。
この作戦で一人でも漏らせば、幻想郷は“疫病の牢獄”になる」
幻想郷・魔法の森・廃屋付近
夜間、FOGLと長野県警機動隊が共同で踏み込みを実施。
「こちらK2!容器発見!……まさか……本物か?!」
特殊処理班が急行し、慎重に密封容器を取り扱う。
「核生物化学(NBC)防護隊、現場へ展開!SFP(Self-Protection Field)確立まで感染危険あり!接触厳禁!」
確認された識別コードには、ザイール型エボラの製造ロット番号――
旧ソ連崩壊後に流出した密造品と一致する記録が表示されていた。
日本・内閣官房危機管理センター
「バイオ兵器だと……?」
首相周辺の国家安全保障会議は緊急招集され、防衛大臣・外相・厚労省・警察庁が集う。
「防衛出動」も検討の対象とされる緊急事態法令が、史上初めてテーブルに上がる。
「この事案は、**“想定外の兵器テロ”**であり、明白な“国家への挑戦”だ。対応に迷いは許されない」
幻想郷・巫女の誓い
事件の報告を受けた霊夢は静かに言う。
「……もう迷わない。私たちの世界に毒を撒く奴らを、絶対に許さない」
隣で魔理沙がつぶやく。「それが、魔法でも科学でも、エボラでも……関係ねぇ。守るだけだ、幻想郷を」