【灰は灰に】
【回想:マクファーソン准将の告白】
深夜、野戦指揮所。
簡易ベッドに腰掛けるマクファーソン准将は、静かにウイスキーグラスを傾けていた。
部下のアレン少佐が沈黙の中で問いかける。
「准将、FOGL部隊の作戦、あれは……本当に敵を誘き出すためだけのものだったんですか?」
マクファーソンは、かつての記憶に目を細めた。
「コルバー大佐──あの時、私の副官だった。
冷静で、忠実で、何よりも“仲間思い”だった。
だが……一度、組織に裏切られた者は、“義”を信じられなくなる」
「彼は裏切ったんですね……」
「いや、“裏切らされた”んだ。
そして、今回のFOGLの任務は──その亡霊のような男と、奴が繋がった“本当の裏切り者”を、暴き出すことだった」
【FOGL部隊の作戦:影の包囲網】
その“影”は動いていた。
レーダーサイト【ゴッドアイ】。幻想郷周辺の空域を監視するNATOと自衛隊共同のレーダー施設。
そこに、ある「誤情報」が意図的に流された。
「ゴッドアイに、高度機密通信端末を設置した要員が存在する」
「ロシア連邦軍の一部、自由ロシア軍と連携している可能性あり」
この情報を受け取った者がいた。
その名は──コルバフ大尉。元ロシア空挺軍出身、現在は亡命者を装い自由ロシア軍に潜伏していたが、
裏ではロシア正規軍・対外情報庁SVRの二重スパイとして動いていた。
霊夢の手に渡ったデータ端末は、**FOGL部隊が彼を誘導するために作成した“疑似リークデータ”**だった。
そして――彼は動いた。
【ゴッドアイ レーダーサイト】
「対象が接近中!」
「衛星監視、カメラ13番に切り替え!」
暗視スコープ越しに映る一人の男。
腕に刺青。ベレー帽。スラブ系の軍服を改造した装備。
「コルバフ大尉……お前が裏切り者か」
FOGL隊員は無言でレーザーポインターを照射。
次の瞬間、周囲にステルス展開していたNATO憲兵と自衛隊特殊警備隊が一斉に突入した。
「手を挙げろ!ロシア対外情報庁の関与が確認されている!」
「くっここまでか……!!」
拘束されたコルバフはなおも暴れたが、すでに脱出ルートも支援者も、用意されていなかった。
「これが、お前の選んだ“二重の裏切り”の末路だ」
MPに拘束され
FOGL部隊の隊長が、無線に向かって呟いた。
【公安調査庁・情報保全隊の報告】
東京都内・政府合同庁舎、極秘会議室。
公安調査庁の特別担当官が、スクリーンに資料を映し出した。
「今回のコルバフ大尉の背後には、ベラルーシ財閥【ペトロヴィッチ・グループ】と親ロ派議員団の金の流れが確認されています。
資金は、中東経由で武器商人──イラン・コルドファー支部に流れていた可能性があります」
自衛隊情報保全隊・幹部が続ける。
「また、幻想郷内部で不審な活動を行っていた“観光客風の男”が、北朝鮮・偵察総局の関係者と確認されました。
連中は“革マル派の日本人活動家”とも接触していた記録がある」
「つまり……幻想郷は、“誰にでも利用され得る地政学的空白地帯”と見られている」
誰かが呟いたその言葉に、室内は重苦しい沈黙に包まれた。
【博麗神社】
「つまり……この端末を私に持たせたのは、“彼”を誘き出すためだったのね」
霊夢は、夜の神社で一人呟いた。
「でも……それにしてもおかしい。“彼”が私たちに近づいてきた時、迷いがあった。
本当に“敵”として来たのか、それとも――」
「――それは私たちも、まだ判断がつかない」
声がした。FOG隊の影が再び鳥居に現れる。
「霊夢。幻想郷が誰の手に落ちるのか、それを決めるのは君たちだ。
だが、我々は“秩序”の側に立っているつもりだ。少なくとも今は、な」