報いの声・沈黙の決意
【アメリカ合衆国連邦議会・安全保障委員会】
議場は荒れていた。
複数の上院議員が机を叩き、喉を枯らしながら叫ぶ。
「国防長官!!──CIA傘下のPMCのやっていることは!あのイラク戦争と同じだ!!」
「住民を勝手に拘束し、尋問し、銃を向ける?
過去の失敗から何も学んでいないのか!?軍部の連中は!」
スクリーンには、人間の里でクロウチームが住人を取り囲んでいる写真。
泣き叫ぶ子供を抱える母親。憲兵のパトカー【トーラス】が到着する寸前の一枚。
「これは“幻想郷”での出来事だが、これは国際問題だぞ!?
このことが国連で追及されれば、我が国の外交信用は地に堕ちる!」
防衛副次官が釈明に立つ。
「……PMCクロウチームは、正式に国防総省の許可の下、CIAと協調して──」
「許可の問題じゃない! 問題は“理念”だ!!」
誰もが口を挟む隙を見つけようとし、誰一人冷静でなかった。
画面の奥、マクファーソン准将の報告書が机の上に静かに置かれている。
【幻想郷・人間の里近郊・第14区画】
パトロール中のアメリカ陸軍憲兵隊に無線が入る
本部:『こちらコマンドポスト:人間の里中央区12番区にて
PMCクロウ部隊が住人に危害を加えているという通報あり!付近のユニットは至急ーーーー』
「──こちらPC-11、了解…現場に急行する。人間の里、中央区画――」
陸軍憲兵のフォード・トーラスが埃を巻き上げて現場に到着する。
MP隊員たちがドアを叩き、黒服の兵士たちに詰め寄った。
「何してるんだ!これは拘束か?!法的根拠はどこにある!」
「こいつは売国奴だ!幻想郷に敵対する勢力と接触していた!」
「証拠は?どこだ?監視記録は?捜査令状は?……おい、CIAの管轄でもこれは越権だぞ!」
クロウチームの一人が唇を歪めて吐き捨てる。
「お前ら、イラクで何を学んだ?俺たちが止めなければ、また同じ過ちが起きる!」
その瞬間、肘が飛ぶ。MP隊員とクロウの男がもつれ合い、怒号が飛び交った。
「やめろ!武器を下ろせ!!」
憲兵たちが拳銃を抜き、PMCの突撃兵が肩にかけたカービンに手を伸ばしかける。
無線連絡を受け陸上自衛隊の73式小型トラック【警務隊仕様】が砂煙を上げて急停車した。
「こちら陸上自衛隊・第202警務隊!現場の治安維持に介入する!」
警務官たちが間に割って入り、盾を構えて両者を押し分ける。
【博麗神社】
怒りに震える霊夢は、マクファーソン准将に詰め寄った。
「准将!どういうことなの!?人を守るはずの軍人が何の根拠もなしに幻想郷の人間を勝手に拘束していいわけないでしょうう!!」
その後ろに魔理沙、早苗、咲夜、華扇らも控えている。
「“守る”ために来たって聞いてたけど、これじゃ“脅してる”だけじゃねえか?!」
「私たちはあなたたちを信用してたのに裏切るの……!?」
マクファーソンは静かに、深く頭を垂れた。
「皆さん……本当に申し訳ない。我々は……現地住民との信頼関係を最も大切にしていた…だが彼らは違う…」
彼の隣には、アメリカ陸軍本部から直送されたマクファーレン中将が立っていた。
その眼差しは鋭く、だがどこか苦渋を帯びていた。
「マクファーソン准将、今から君に命ずる。PMCクロウチームはただちに全隊を引き揚げ、幻想郷外の臨時駐屯地に移動させろ。彼らの今後の活動については再審査を行う」
准将は頷く。
「はっ!……了解しました。総員、クロウチームの作戦中止を命ずる。現地住民との全接触を断ち、NATO・自衛隊との情報連携のみに留めるよう伝えます」
【そして、夜】
霊夢たちが帰った後、マクファーソンは静かに一枚の紙を取り出す。
それは、上院から届いた召喚状――「PMC運用方針に関する軍高官の証言聴取命令」。
彼は、書類の上に目を落としながら、静かに呟いた。
「影が強くなりすぎれば、光は恐れられる。
だが、どちらもなければ、この幻想郷という“境界の地”は守れない……」