表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/218

第77章:【自ら選んだ道へ】


【幻想郷・北の仮設哨所跡】

霧が深く立ち込める夕暮れ、仮設哨所に現れたのは、見覚えのある姿だった。

自由ロシア軍所属と見られる部隊。その先頭に立っていたのは、かつて第74歩兵旅団に属していた男――ワシーリ・ディミトリ・ポロコフ少佐だった。


その横にはもう一人。

若く、成長した面差しを浮かべる青年――ミハイル中尉。


そして、ハルコフ大佐の背後にいたウォルコフ少佐が、息を呑んだ。


ウォルコフ「……ワシーリ……?それに、ミハイル……?」


沈黙が流れた。


ウォルコフ「お前たちは2年前にドンバスで……行方不明に。いったいどこにいたんだ?」


その問いに、ディミトリ少佐が重々しく口を開く。


【回想:2年前――2023年9月28日 ドンバス前線・森林地帯】

BPM-97装甲車内


エンジン音が轟き、戦地へ向かう隊員たちの会話が続く。


サシャコフ「次はどこに行くんだろうな」


イワン「さあな……激戦区だろ」


ヤコブスキー「ということは、リマンか?」


ミハイル中尉「わかりません……少佐はどう思いますか?」


ディミトリ(少し遅れて)「……この方向だ、ドンバスだな」


サシャコフ「ドンバスか……ウクライナ軍の攻勢が強まってるって話だぜ」


ボリス「だが勝てるもんかよ。奴らが来たところで――」


バルコフ「ああ、俺たちは熊のように戦う。大義は俺たちにあるさ!」


ミハイル「………」


ディミトリは黙っていた。

彼の中ではすでに「戦争の大義」など失われていた。ブチャで見た、焼け落ちた家、泣き叫ぶ子供、そして上官が笑いながら命じた“粛清”。


ディミトリ(心の声)


「俺は……祖国に失望した。これはただの虐殺だ……自由の名を語る、殺戮だ……」

その時、運転手が前方に何かを見つけ、叫んだ。


運転手「止めろ!」


車両が急停止する。


サシャコフ「なんだこりゃ……」


視界の先に、破壊されたパーンツィリS-1が道路を塞ぐように横たわっていた。


ヤコブスキー「まさか、罠……?」


直後、森林から一斉に現れる自由ロシア軍兵士たち。


兵士「コンタクト!後方より接近!伏せろ!」


騒然となるBPM-97内。


ディミトリ少佐「……待て。俺が行く」


イワン「はあ!?死にに行くのか?」


ディミトリ「ミハイル、ついてこい」


若い中尉は目を丸くしたが、頷いた。


【森林の狭間】

銃を構える兵士たち。

その中に見慣れた顔があった。――自由ロシア軍 中佐 カマロフ。


カマロフ「……ディミトリ?」


ディミトリ「ああ……まさか、こんな所で再会するとはな」


緊張が走る。

ミハイルが銃を構えるが、ディミトリが静かに手を下げさせた。


ディミトリ「君たちに銃を向けるつもりはない」


その言葉を最後に、彼は装甲車へ戻ると、ハッチをそっと開けた。


ディミトリ「さらばだ……同志たちよ」


ポケットから手榴弾を取り出し、車内へ転がす。


兵士「おい!やめろ!!ディミトリ!なにを――」


ドカン――ッ!


爆発が起き、装甲車は内部から吹き飛んだ。


煙の中から、咳き込みながら這い出てくる兵士。

ディミトリはその男の目を見て、そっと引き金を引き……安らかに送った。


その後、カマロフ中佐と堅い握手を交わす。


カマロフ「……ようこそ、“自由”の戦いへ」


【現在・幻想郷】

ディミトリの話に、誰もが言葉を失った。

ウォルコフ少佐は長い沈黙の後、こう呟いた。


ウォルコフ「……地獄のような場所だったろうに……生きて、よく来てくれた」


ミハイル中尉も小さく礼をし、敬礼を返す。


ミハイル「僕も……選びました。少佐と共に、戦うことを」


ハルコフ大佐は一歩近づくと、ディミトリの肩に手を置いた。


ハルコフ「ようこそ……新しい戦場へ。ここはまだ、“守る価値”がある場所だ」


風が吹いた。

それは幻想郷の風であり、彼らを迎える風でもあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ