ロシア軍との遭遇
【幻想郷・魔法の森・南端】
深く静まり返る霧の中、ロシア連邦軍・第27親衛機械化歩兵連隊の先頭部隊が進んでいた。
彼らを率いるのは、冷静沈着な指揮官――ハルコフ大佐。
その隣を歩くのは、経験豊富な副官――ウォルコフ少佐。
濃霧の中で視界は限られ、ただ音と気配だけが彼らを導いていた。
魔法の森の境界線が目前に迫る中、前衛の歩哨が手信号を送る。
「接触だ。西側装備、NATO軍と思われます」
ハルコフ大佐は立ち止まり、目を細めて霧の中を見つめた。
「……我々は偵察任務だ。発砲は許可しない。
ただし、万が一にも敵意を見せたなら――退路を確保しろ」
ウォルコフ少佐が頷き、後続に指示を飛ばす。
そして、そのときだった。
木々の間から姿を現したのは――
アリス・マーガトロイドを先頭としたNATO部隊、及び幻想郷側の仲介者たち。
マルク大尉(フランス軍)、チョルク大尉(ハンガリー軍)、
そして魔法使いの少女――アリスが一歩、前に出た。
「Добро пожаловать.(ようこそ)」
その一言が、霧の中の緊張をわずかに和らげた。
ハルコフ大佐がアリスを見つめる。鋭い眼差しの中に、冷静な判断が宿っていた。
「……我々はロシア連邦軍、第27親衛機械化歩兵連隊。
私はハルコフ大佐、副官のウォルコフ少佐だ。
この地での任務は偵察であり、敵意はない」
アリスは静かにうなずき、マルク大尉が進み出る。
「我々は即応調査隊。幻想郷において、戦闘の拡大を防ぐために動いています。
大佐、どうか…まずは話し合いの場を持っていただきたい」
ハルコフ大佐は霧の向こうを見つめたまま、短く呟く。
「……ヤルタでは、もっと冷たい風が吹いていた。
今ここで銃を下げられるなら、それだけで意味がある」
そして、彼の右手がゆっくりと上がる。
ウォルコフ少佐が命じる。「全隊、銃口を下げよ!」
それは静かで、小さな動作だった。
だが――それが、この森に広がる緊張を、確実に変えた。
アリスの横でチョルク大尉が呟く。
「……第一の壁は超えたな」
アリスもまた、静かに応える。
「けれど、本当の交渉はこれからよ。
幻想郷での戦火を未然に防げるかどうか…この場に懸かっているわ」
そして、ロシア軍とNATO、幻想郷の仲介者たちの対話の幕が上がる――。