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午前11時の竹林協定

幻想郷・迷いの竹林・臨時交渉拠点】


竹林に吹く風が、重い空気を静かに揺らしていた。

小さな囲みの中で、三人の軍人が椅子に腰掛け、地図と資料を前に会談を続けている。


ニコ中佐は湯気の立つ金属カップを口元に運びながら、ふと遠くを見るようにつぶやいた。


「なんだか懐かしいな……かつての独ソ戦、あるいは第一次大戦の**“午前11時の休戦協定”**を思い出すよ。

歴史の教科書じゃ、あの瞬間もこんな空気だったんじゃないかと思う。

互いに銃を下ろし、同じ泥にまみれた兵士たちが…やっと呼吸を取り戻す、そんな空気さ。」


カティンスキー中佐が苦笑しながら答える。

「歴史は繰り返す、か。だが…同じ轍を踏むかどうかは、俺たち次第だ。」


その横で、マルコフ大佐が無骨な声で呟いた。

「我々は元は同志であり、兄弟だった。だが今や、血で塗れた歴史の中で別々の道を歩いている…。

……まったく、家庭の喧嘩にしては代償がデカすぎる。」


三人の指揮官が、重苦しくもどこか笑いを含んだ表情で互いを見た。

冗談の中に、深い傷とそれを乗り越える意志が見え隠れしていた。


少し離れた場所で様子を見守っていた霊夢は、言葉を失っていた。

風が止んだかのような張り詰めた空気。そこに流れているのは、ただの外交や交渉ではない。


「……凄い、この空気……言葉の重さが違う。

これは政治じゃない。生き残った者同士の“誓い”みたいなものだね。」


隣で、朝田三佐が静かに頷いた。


「ええ……彼らは、旧ソ連という超大国の中で育ち、解体を経て別々の国家に生き、時には敵として銃を向けた。

その彼らが今――ここ幻想郷で手を取り合おうとしている。

……なんとも皮肉で、しかし希望でもありますね。」


その時、マルコフが地図を指差しながら言った。


「カティンスキー、我々の兵を北側の丘に移動させよう。

誤認されれば再び戦闘になる。今は最も必要なのは“接触ではなく隔離”だ。」


カティンスキーは短く答えた。

「わかった。指示を出す。

……マルコフ。次に銃を構える時が来たとしても、お前とは同じ方向を向いていたい。」


ニコ中佐がそれを聞いて、苦笑しながら肩をすくめた。

「やれやれ……これで俺も一安心だ。さすがにもう、裏切り者と呼ばれずに済みそうだな。」


三人の軍人が立ち上がり、互いにがっしりと手を握る。

その光景は、軍服も国籍も違えど――**まさしく“同じ戦場を知る者たちの絆”**だった。


そして――この歴史的な場面を、霊夢たちはただ静かに、敬意をもって見守っていた。彼等の腕時計は午前11時を回ったところだった…

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