迷いの竹林:接触と緊張
博麗神社を後にした朝田三佐と霊夢は、迷いの竹林へ向かう。
そこには簡易的な軍事拠点が設けられていた。もし自由ロシア軍が先にこれを発見し、ロシア軍の拠点と誤認すれば、事態は一気に衝突へと発展してしまう。
なんとしても、その可能性を塞がなければならなかった。
一方、永琳たちも対策を進めている。
竹林に展開したNATO軍と協力し、自由ロシア軍の捜索にあたっていた。
ただし、彼らは必要最低限の武器しか携行していない。相手を刺激してはならないからだ。
その緊張感はまるで、かつてのベトナムと中国の国境紛争勃発寸前のようなものだった。
そして魔法の森でも、魔理沙やアリス、マルク大尉らをはじめとする部隊が、ウクライナ軍との接触を目指して捜索を開始していた。
迷いの竹林の奥、朝田三佐と霊夢は簡易拠点に慎重に近づいていた。
周囲は静寂に包まれ、木漏れ日が揺れるだけだ。彼らの足音すら消え入りそうだった。
「準備はいいか?」朝田が小声で問う。
霊夢は静かに頷いた。
その時、無線からシュルツ中佐の副官ハルトマン少佐の
落ち着いた声が届く。
「自由ロシア軍の動き、確認。接触ポイントへ向かっています。こちらは準備万端です。」
「了解。焦らず、慎重に行こう」朝田が応じた。
しばらくして、遠くに人影が見えた。自由ロシア軍の兵士たちだ。互いの武装は最低限で、敵意は見えない。
霊夢は心の中で願った。
「どうか、このまま対話が叶いますように……」
やがて、朝田三佐はゆっくりと距離を詰め、無言のまま数メートルの距離で止まった。
その緊張の一瞬に、マクファーソン准将の言葉が思い出された。
「衝突は避ける。対話こそが未来を拓く道だ」
迷いの竹林に沈黙の瞬間が走った。
両勢力は互いに対峙していた。朝田三佐たちの姿が自由ロシア軍の兵士に発見される。
「誰だ!」自由ロシア軍の兵士の鋭い叫びが、竹林の静寂を切り裂いた。
その声に呼応するように、全員が一斉に銃口をこちらへ向ける。
AKや旧東側装備に混じり、西側から供与された装備も見える。かつて対立していた国々の武器が、この場に渾然一体となっていた。
朝田三佐は冷静に片手をゆっくりと挙げた。
彼の声は凛としたウクライナ語で響く。
「Ми — Силы самообороны. Ми прийшли з миром.」
(我々は自衛隊である。平和のために来た。)
その言葉は、緊張の空気の中で静かな重みを帯びて響いた。
朝田三佐の言葉が竹林に響くと、自由ロシア軍の兵士たちは一瞬、銃口を下げかけたものの、まだ警戒の色を崩さない。
「何者だ?」一人の兵士が厳しい口調で問い返す。
「自衛隊か……? お前たちがここにいる理由は何だ?」
霊夢が一歩前に出て、静かな声で答える。
「私たちは、ここでの衝突を避けたいだけ。話し合いのために来ました。敵ではありません。」
自由ロシア軍の兵士たちは互いに目配せをし、緊張感を保ちながらも態度を少しずつ和らげていく。
その時、無線からマクファーソン准将の声が届く。
「接触部隊、こちら本部。焦らず慎重に。平和的解決を最優先に。」
朝田は頷き、兵士たちに向かってゆっくりと手を下ろす。
「武器は下げてくれ。我々は本当に敵ではない。」
しばらくの間、竹林の中に張り詰めた緊張が続く。だが、少しずつ互いの距離が縮まっていった。
霊夢は胸の内で祈る。
「このまま、平和的な対話が叶いますように……」