沈黙の時間
静かなる交渉者たち ― 幻想郷への第一歩
戦術指令所の中心に立ち、マクファーソン准将は周囲の幹部たちを見渡す。
その瞳には、深い疲労と、それを上回る決意が宿っていた。
「まず――我々がやるべきことは、一つ」
静寂の中、准将の声が低く、しかし明確に響く。
「彼らと接触することだ。敵でもなく、傀儡でもない。この世界に迷い込んだ“同じ現実の人”として、話をする必要がある」
誰かが息をのんだ。
それがどれほどの危険を孕む行動か、全員が理解していた。
「その次に、原因の究明。この“転送”現象が何によって引き起こされたのか、再発の可能性はあるのか。それを解明せねばならん」
そして最後に。
「今後の対策だ。混乱がさらなる混乱を呼ぶ前に、封じなければならない。ここを第二のウクライナにはさせん」
彼は一呼吸置き、軍服の袖を正しながら、こう続けた。
「良いか――彼らは不安がっている。恐れている。この未知の世界で、何が起こるかも知らずに…かつての我々のようにな」
「だから刺激はするな。慎重に事を運べ。そして何より――信頼を築け。この幻想郷にいる限り、我々も、彼らも…**“同じ仲間”なのだ」
その言葉は、NATO・自衛隊の将兵たちの胸を打った。
接触の準備
マクファーソンは手元の名簿に目を落とすと、部下に指示を出した。
「現地の信頼できる者たちを集めろ。博麗霊夢、アリス・マーガトロイド、八雲紫…彼女たちの協力なしには、この接触は成立しない」
アレン少佐が頷く。
「霊夢なら、中立の立場から接触できる可能性があります。アリスは論理的な交渉に長けているし、紫は裏側の動きにも通じている」
マクファーソンは静かに言った。
「今は亡きケネディ大統領も、1962年キューバ危機の中でソ連の主導者"フルシチョフとの対話を選んだ。
冷戦下、世界が一瞬で終わる可能性にさらされながらも、彼と現場の指揮官たちは、対話を信じた――我々も、それにならう」
最後に、彼は机の上に並べられた拳銃を見つめる。
・グロック26(9mm)
・M45A1(.45ACP)
・USPコンパクト(.40S&W)
「万が一のためだ。だが忘れるな――これは防御のためであって、決して“口火”ではない」
幻想郷との協力、そして極限の交渉へ
ほどなくして、博麗神社に集められた幻想郷の有力者たち。
霊夢は厳しい表情で問う。
「また“外”から人間が来たのね。しかも、今度は大軍勢。…あなたたち、本当に幻想郷を戦場にしたいの?」
アリスは冷静に状況を整理する。
「それぞれが別の場所に転送されたのは偶然か、それとも意図的か…ただ、現段階で最も必要なのは“火種”を消すことよ」
そして八雲紫が、どこか憂うように微笑む。
「面白いわね。今の世界は、幻想よりもずっと混沌としてる。さて、どこまで“幻想郷”が彼らを包めるかしら」
マクファーソンは三人に深く頭を下げる。
「どうか、我々に力を貸してほしい。我々が失えばならぬのは、未来だ。戦争ではない」
そして彼らの手には、信頼と緊張が入り混じる「接触任務」の通達が届く。
彼らは、銃ではなく言葉で――幻想郷を守るための戦いを始めようとしていた。
:静かなる誓い ― 沈黙の接触
博麗神社に、柔らかな陽光が差し込む。
外の世界では戦車や装甲車が進軍し、衛星通信が交錯する一方、ここでは時が止まったように静かだった。
そしてその中心に――二人の「世界の意思」が対峙していた。
マクファーソン准将が静かに語り出す。
「本当だ。我々は、争いを望んでいない。…むしろ、争いを止めるためにここにいる」
霊夢は鋭い目を向けたまま、短く尋ねる。
「……本当?」
准将はその問いを受け止めるように頷いた。
「その通りだ。信じてくれ。我々は歴史の中で、何度も“終末の手前”に立った。
だが、そのたびに、最後の一線を越えなかった者たちがいた。冷戦期のあの“沈黙の英雄”たちが…」
「キューバ危機ではU-2偵察機が撃墜されても、核は使われなかった。
プエブロ号が拿捕され、全世界が報復寸前だった時も、“手を引く”勇気が示された。
ソ連の早期警戒システムがアメリカのミサイル発射を“誤認”したあの日――誰かが信じなければ、世界は終わっていた」
「潜水艦B-59の艦長たちが核発射命令を拒んだように、世界は“信じた者たち”によって守られてきた。
今、ここ幻想郷もまた、そういう岐路にある。信じるべきか否か、それは君たちに委ねられている」
霊夢は沈黙する。
その表情は厳しく、疑いを捨てていない――いや、だからこそ本気で問いを投げていた。
だが、そのとき――彼女の背に、静かに一人の男が進み出た。
陸上自衛隊三佐・朝田寛人。
「霊夢さん。皆さんの気持ちはよくわかります」
彼の声は、静かで真摯だった。強く響くわけではない、だが心に染み入る声だった。
「我が日本も、過去に何度も戦火の危機に晒されてきました。
2017年の北朝鮮のミサイル、尖閣危機、テロの脅威、阪神淡路地震などの災害時の混乱…。
それでも私たちは、“最後の手段”に頼らない道を選び続けてきた」
「なぜか――それは、過去の歴史が語る“犠牲”を我々が知っているからです。
広島・長崎、東京大空襲、沖縄…。
だからこそ、私は命をかけても、この接触を“戦争”にしないと誓います」
その言葉に、霊夢はゆっくりと視線を落とした。
彼の真っ直ぐな目――それは嘘をつけない、命を賭けた者の目だった。
そして霊夢は口を開く。
「……いいわ。信じてあげる。でも、もし裏切ったら……たとえ、大切な人である"あなた"でも、許さない」
朝田は静かに頷いた。
「……わかりました。私も命をかけます」
言葉は短い。だが、それで十分だ
緊張の中、朝田三佐と霊夢は向き合う
互いの顔をじっと見つめる。マクファーソン准将もそこにいる
三人の視線には、相手の考えを読み取ろうとする真剣な意志が宿っている。
「これから我々は、ロシア軍【第27親衛機械化歩兵連隊】、自由ロシア軍【第7分隊】、そしてウクライナ陸軍【第151歩兵小隊】と接触する。」
マクファーソン准将の声には、衝突を避けたいという強い覚悟が込められていた。
三人の想いは一つ。だからこそ、本気で向き合っているのだ。
しばしの沈黙の後、霊夢が口を開く。
「行きましょう……朝田さん。危機を脱するには、まず接触を図らないと」
朝田三佐は彼女の言葉に感謝の意を示した。
マクファーソン准将も霊夢の誠意に深く感謝し、これからの接触に関する要望を伝えた。
朝田三佐は霊夢に向かって言う。
「霊夢さん、ありがとう」
霊夢は優しく答えた。
「良いのよ……あなた達の思いが本気だって伝わったから」
しかしすぐに、鋭く釘を刺す。
「だけど、責任は伴うわよ?それだけは忘れないで」
朝田三佐は頷く。
「わかっています。僕も全力を尽くします」
これから霊夢たちは、自由ロシア軍との接触に臨む。
そしてその先の進展は、彼らに託されているのだ。