緊急会議
キエフ・ウクライナ大統領官邸地下作戦センター
現地時間 14:10
白熱灯の光が反射する巨大な会議テーブルの上には、各国首脳の映像がモニター越しに並び、緊張した空気が張り詰めていた。
会議は機密指定“コード・イリジウム”の下、極秘裏に行われている。
ゼレンスキー大統領(映像中央)
「我が軍の第145歩兵小隊、ロシア第27親衛機械化歩兵連隊、そして自由ロシア軍の第7分隊が…一瞬で消えた。目撃情報、通信、ビーコン、何一つ残っていない。そして、この現象は、ラムシュタイン空軍基地で確認された“あの時”と一致している……」
エマニュエル・マクロン仏大統領(映像右端)
「ならば、これは偶発的な異常ではないということか。誰かが、意図してこの現象を利用している――“転移”を制御できる者がいるのでは?」
リシ・スタマー英首相(映像左端)
「ザリヤ装置……か。ロシアは公式には否定しているが、我々の情報では**“オムスク計画”なる兵器開発プロジェクト**の一部として進行中だったと報告されている。もしこれがその実験の副産物なら……」
NATO事務総長
「副産物で味方すら喪失するなど制御不能だ。だが、もし意図的な兵力移送の準備段階だとしたら、ウクライナ戦線を混乱させ、主力を転送した後に我々の都市に飛ばす、という先制型戦略兵器の試験とも考えられる」
アメリカ国家安全保障担当補佐官(代理出席)
「我々としては、CNSA(中国国家宇宙局)および北朝鮮科学院の近年の論文や物理実験記録も確認している。中露北のいずれかがザリヤ装置にアクセスしていた場合、戦略的均衡が崩壊する」
イタリア首相(緊張した声で)
「もし、あれが戦場の兵士だけでなく、核弾頭を搭載したミサイルや特殊部隊を転送できるようになったら…?」
会議室内に重い沈黙が落ちる。
ゼレンスキー大統領
「だからこそ、我々はただちに情報共有と共同対策の枠組みを拡大する必要がある。現在の消失地点――ドネツク南部――には、NATO技術班の展開を要請したい。あの空間現象が再発すれば、さらなる損害が出る」
スタマー首相
「我が国も協力しよう。王立空軍の電子戦部隊および量子干渉解析班を即時派遣可能だ。現地でNATOチームと合流させる」
マクロン大統領
「フランスとしても承認する。だが同時に、国連安保理の非公開緊急協議も視野に入れるべきだ。これが世界規模の危機になれば、幻想郷のような“異界”への門が各地に開くことになるかもしれない」
ザリヤ装置――それはもはや一国の問題ではなく、世界秩序の根幹を揺るがす存在となっていた。
NATO事務総長
「我々は今、第三次世界大戦を防ぐ唯一の窓際に立っている。ロシアが意図して使っているならば交渉の余地はない。だが――もし彼らも“被害者”であれば、事態は一変する」
ゼレンスキー大統領
「そうだ……。敵も味方も、あの現象の前では等しく消える。これは人類全体に突き付けられた試練かもしれない」
その時、大統領官邸のモニターに新たな情報ウィンドウが開く。
[警告] 新たな空間波形反応を確認:ポーランド国境付近 - 時間誤差7.2秒 - パターンラムシュタイン一致率:98.9%
スタマー首相
「……もう始まっているじゃないか」