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散りゆく桜と共に散る

 “ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……”


 消毒液の匂いが充満した真っ白な病室。

 そこで聞こえるのは、一定テンポでなり続ける機械音と少しずつ荒くなっていく自分の呼吸音だけ。


 あの事故から、もう三年も経つのか……。

 我ながら、中々に頑張ったのではないだろうか。

 うん、めっちゃ頑張った。死にそうなぐらいに頑張った。いや、まあもう既に1回死んでるけども。


 三年前から、全く言うことを聞いてくれない体を全力で動かして、枕の横の机に置いてあるノートとスマホに手を伸ばす。

 本当に、この体は使い勝手が悪い。結局、三年間一歩も立つことができなかったし。


 そんなことを考えながら、手紙を取るために四苦八苦することだいたい十分ぐらい。スマホの待ち受けを見てみたら二十分たってた。

 ずっと、同じことやってるせいで時間感覚がぶっ壊れてる模様。

 

 んで、死ぬ直前にやるとこと言えば1つしかないでしょ。

 俺の遺書を書く。


 少し前から、書こうとはしていたんだけど中々書こうと思っても書けなくてね。何を書けばいいんだろう。

 ま、スマホに保存されている写真でも見てれば、そのうち書きたくなるでしょう。

 

 あ、遺書のタイトルは先に決めておきたいな。

 別に、シンプルに遺書でもいいかと思ったんだけど、やっぱオリジナリティを追求しないと駄目な気がする。

 タイトルで俺が何を考えていたかを伝えられるようにしておきたい。

 俺の最期の言葉。簡単には、決められないな。

 

 お、中学の時の修学旅行じゃん。懐かしいな~。みんな、元気にやってるだろうか。

 あいつらにも、ちゃんと遺書を残してやらないとな。ちょっとだけ、頑張るか。


 (死ぬのは怖くない)


 今日も、俺はそう自分に言い聞かせている。でないと、心の底で眠る恐怖が目覚めてしまいそうだから。

 見えないけれど、確実に迫ってきているだろう死を待ちながら。



 

 ★★★




 それから、1か月後の4月1日 朝。

 咲き誇る桜の花々に見守られながら、一人の青年の人生が幕を下ろした。

 

 ベッドで安らかに眠る彼の胸には、一冊のノートが置かれていた。

 その、ノートの表紙には油性ペンの汚い字でこう書いてあった。


 


 “もし、一つだけ望みが叶うのなら”

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