初めての…
その日、夢を見た……
天月
「今日は狐我家から、動くんと…」
動
「お邪魔します。涼くん、元気にしてたか?」
涼
「うん、元気だよ。また来てくれて嬉しいよ!」
天月
「そして…弟の静も連れてきてるのよ!」
少し緊張しながら玄関に出てくる静…
静
「はじめまして、狗神涼くん。」
素直に静が照れながら微笑みを浮かべ言う…
涼
「あ、はじめまして……」
天月
「動くん、涼、静くん……みんな元気に育ってくれて、母さんは本当に嬉しいわ。これからも仲良く、支え合ってほしいの。私は少し弱いけど、みんなのことはいつも願っているからね。ごめんね……ちょっと寝室で少し休ませてもらうわね…」
涼
「大丈夫かな……」
静
「ねぇ、涼くん、遊ぼうよ!」
涼
「うん、いいよ!」
しかし、しばらく飽きたのか静は動に声掛けた…
静
「ねぇねぇ、兄ちゃん、少しだけ遊んでよ…」
動
「うーん、ごめんね静、俺にはちょっとやらなきゃいけないことがあるんだ。庭で父さんと話を済ませないとね。」
静は小さく肩をすくめ、躊躇いながら涼の方へ視線を戻す。その間、庭の片隅で父親と話す動の様子を見つめ、涼も少し切なそうにそれを見守った。
涼
「動兄ちゃんはいつも忙しいんだな……」
涼
「さ、遊ぼうか!」
涼
「うん!」
二人は庭先で無邪気に遊ぶ。
しかし、遊べることもだんだん限られてきて、少し退屈になってきた。
涼
「そろそろ、何か違うことしてみようか」
静
「うん、でも何にしよう…」
涼
「そうだねー?えーと……」
静
「そうだ!ねぇねぇ、涼くん、あそこの洞窟、気にならない?」
涼
「ん?ああ、前から気になってたけど、ちょっと怖いんだよね……」
静
「でも探検してみたいな!こっそり行ってみようよ!」
涼
「……わかった、じゃあ行ってみるか!」
二人は遊びの途中でそっと抜け出し、気になっていた洞窟へ向かった。
薄暗い入口の岩は凸凹していて歩きにくく、足元に気をつけながら慎重に進む。
涼
「足元気をつけろよ、ここ……見た目以上に危なそうだ。」
静
「うん、でもワクワクするね!」
奥から何か暗いものが……
涼
「な、なんだあれは……!」
静
「あっ……足が……!」
涼
「やばい、走らないと!」
静
「あっ……足が……!」
静は岩に躓き、足を捻ってしまう…
慌てた涼は近くの石を拾い、投げつける。石は光を放ち、暗いものは後退した。
静
「すごい…でも、なんで光ったのかはわからないよね…」
涼
「うん。でも、助かったからよかった…」
二人は慌てながらも家に戻り、庭先の井戸へ向かう。
涼
「ここでちょっと休もう。冷たい水で手拭い濡らすからな…」
涼は井戸の水を汲み、冷たい水で手拭いを濡らして静の足に優しく当てる…
静
「あ、ありがとう、涼くん……」
そこへ、家の方から動が険しい顔で近づいてくる狐我動か来ていた……
動
「お前たち、どこに行っていたんだ?怪我までして……」
険しい言葉の裏に、深い心配と不安が滲むのを感じる…
動
「無茶をするな。お前たちのことを思うと……黙って見ていられないんだ…」
涼「ごめんなさい…でも…俺たち、ちょっと遊びに行ってただけ…」
動
「遊びで済む怪我じゃないだろう。だが、それ以上に……お前たちが無事でよかった。」
静
「兄ちゃん……あの、ね洞窟で……黒い霧に会って……」
怖い…声が震え、言葉が…出てこない……
涼
「そうだ!逃げようとしたんだけど、静が足を捻ってしまって……」
動
「そうか……無理はするなよ。お前たちの命が一番大事だ。」
動
「だがあの洞窟で黒い霧とは……今まで聞いたことのないことだな……報告は、きちんとしないと……」
涼と静はうなずき、まだ少し緊張したまま兄ちゃんを見る…
狐我家当主、狗神贒の部屋。動が報告する
狗神贒
「黒い霧の件だが、今後の動向をどう見極めるか……」
狐我家当主
「子供たちの安全も確保しながら、迅速な対応を……」
動は深呼吸をひとつして、落ち着いた声で口を開いた。
動
「狗神家当主、申し上げます。涼と静が洞窟で黒い霧に遭遇しました。静が怪我を負い、涼が光属性の石で一時的に退けました。」
報告に耳を傾ける狗神贒は、眉をひそめ机に手を置く。
狗神贒
「以前からこの動きには懸念を抱いていた。異常な気配だ……涼もまだ若い。家族の安全も、学園や五代家の未来もかかっている。」
狐我家当主も視線を鋭く巡らせる。
狐我家当主
「深刻だ。だが、涼たちの安全を最優先にしつつ、迅速に対応せねば…」
動はうなずき、深く息をつく。胸の中で、責任の重さをかみしめた。
動
「承知しました。全力を尽くします。」
部屋の外では、涼と静が庭で無邪気に遊んでいる。二人には会議の内容は見えず、聞こえない。だが、庭の向こうで響く大人たちの緊張した声と、重い空気は、わずかに届いていた。