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狐我家物語  作者: sayusa
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交差する闇

 課外授業から一夜明け、昼休み。

 いつものように昼食を終え、席に着いたところで——涼!と言い、慌てた様子の静が、手にノートを抱えて駆け寄ってきた。


 静

「今いいか? 今日、朝自習だったから図書館で調べてたんだ…昨日のこと、やっぱり可笑しい」


 涼

「……まぁ、そうだよな…」


 湯気の立つ紅茶をひと口。

 普通なら一年に一回あっても変じゃない裂け目が、去年から倍以上増えてる。それに闇霧の発生頻度も——


 静

「しかも今回は五属性だ。気づいたか? 風属性を纏っていた…」


 涼

「あぁ…今まで俺が遭遇したのは闇か無属性だけだ。霧が属性を変えるなんて聞いたことがない」


 静

「だから…付き合ってくれ」


 涼

「またか? 身体壊すぞ」


 静

「気をつける。でも…『世界の裂け目』が定期的に現れるのは学園でも習ってるだろ? 今回は時期外れで、異常だ」


 涼

「……そうなんだよな」


 静

「課外授業も、これから今まで以上に増えるかもしれない」


 涼

「はぁ……またかよ。勘弁してほしいけど、やるしかねぇのか」


 静

「敵が強くなってる以上、俺たちも成長しなきゃ生き残れない。それに…涼だから頼んでる」


 涼は深くため息をついた。


「……わかったよ。でも、もうちょっと休ませろ」


 紅茶の温もりが残るわずかな時間が、静かに過ぎていった……


 少し時間を遡って…前日の山間ではーーー

 森の奥、空気は湿り気を帯びた冷気と焦げた匂いで満ち、視界の端まで灰色の霧が揺らめいていた。

 三年生の制服は泥にまみれ、袖は裂け、額から血が流れている。

 その前に立つのは裂け目から滲み出た影──炎を纏ったかと思えば次の瞬間には氷の結晶を散らし、地面を凍らせる。


「……っ、属性が変わった!? こんなの聞いてない!」


「複合だ…! 炎と氷が混ざってる…対応が追いつかねぇ…!」


 教員が防壁を張るが、熱でひび割れたかと思えば、瞬時に凍りつき粉々に砕ける。


「まだだ、足を止めるな!」


 三年生の一人が残りの力で属性変化の隙を突き、光刃を振り抜く。

 影は悲鳴を上げ、形を保てずに霧散した。

 しかし足元には凍りついた焦げ跡と倒木が混ざり合い、異様な光景が広がっていた。

 それは、裂け目から現れる存在が確実に変質し、複雑化している証だった。


「……まだ残ってる!」


 三年生の叫びと同時に、木々の影から巨大な影が揺れ動く。

 炎と氷を纏った異形が、裂け目へ引きずられまいと足を踏ん張った……その瞬間、空気が変わった。

 森の奥から、一人の男が静かに歩いてくる。長身、鋭い眼光、そして手にした符が淡く輝いていた。


「……よく持ちこたえた!」


 現れたのは──狗神家当主・狗神贒。

 低く響く声と同時に、彼は印を結び、周囲の空気を震わせた。

 狗神贒(当主)は最後の一体に向かって印を結び、低く響く声で封印の言葉を紡いだ。

 地面から立ち上がる光の鎖が獣を絡め取り、やがて眩い閃光と共に消え去る。


「……封印、完了だ。残りはもういない。全員、警戒を解くな!」


 静かながらも重みのある声が響くと、その場にいた者たちは一斉に息を吐いた。

 三年生の一人は護符を地面に突き、その柄に体を預けるようにして荒く息を吐く。

 別の者は壁のように立ち並ぶ木々にもたれかかり、肩を上下させながら額の汗を拭った。


「……はぁ…はぁ…これほどのもの、俺たちでも……」


 押し殺すような声に、誰もが頷く。

 それは、経験を積んだ彼らでさえ追い詰められた証だった……

 やがて指示を受け、教師たちと共に後処理へ移る三年生たち。

 その背中には、勝利の安堵と同時に、次はどうなるのかという不安が静かに滲んでいた――。

 午後、校門の向こうから数人の影が現れた。

 近づくにつれ、その姿に周囲の空気が変わる。三年生たち──そして同行していた教師までもが、服は泥と煤に汚れ、裂けた袖や焦げた裾が揺れている。

 中には、片腕を布で吊った者や、額に汗の筋を残した者もいた。

 静も涼も、思わず席を立った……

 声をかける間もなく、彼らは足早に校舎へ向かっていく。その背中からは、ただの疲労ではない、何か重く沈んだ気配が漂っていた。

 ──昨日、あの場所で何があったのか。

 問いかけたくても、まだその答えは闇の中だった。

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