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仙樹の君  作者: 霧島 隆瑛
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第5話

 萌菜は一人で縁側に座り、夜空を眺めていた。


「綺麗……」


 満月が穏やかに微笑み、星々がこの世界を祝福しているかのように、絢爛と輝いていた。


「そっか、文明が崩壊して三百年以上、排気ガスとかなくて、空気が澄んでいるんだ……」


 それに気付くと、萌菜は、めいいっぱい深呼吸をした。


「はぁぁぁ……」


 そしてため息とともに、息を吐き出す。もやもやとした気分まで、吐き出された気がした。


「これから、どうしよう」


 萌菜は叡知の廃殿ならぬ、青砂インターネットテクノロジーズでのことを思い出した。




「私、三百年以上の未来に来ちゃった……」


 萌菜の呟きを、その場の全員が聞いていた。


 だれも言葉を発しなかった。


 しばらく静寂が流れたが、おもむろにソウハが声をかけた。


「村に帰ろう」


 ソウハを先頭に一人一人、萌菜を気遣うように見た後、室内を出ていく。


 萌菜は呆然とモニターを見ていたが、室内に誰もいないことに気付くと、慌てて後を追った。




「骸骨さん」


 帰り道、アケミがいきなり近くに来て、萌菜をいじった。


「はぁ?」


 落ち込んで俯むきながら歩いていたが、いきなり悪口を言われ、萌菜は思わずアケミを睨んだ。


「そ、そんなに怒るなよ。だって、そうだろ。モエナは凄い昔のご先祖なんだから。骸骨じゃん」


「あんたね……」


 口が悪くなった萌菜だったが、沈んだ気持ちは、アケミへの怒りで吹き飛んだ。


「そんな辛気臭い顔をするなよ。妖魔が寄ってくるぞ」


「え?」


 そう言って、離れていくアケミ。


(もしかして、私、励まされた?)


 アケミなりの気遣いなんだろうと、思うことにした。




 その後、数匹の妖魔と遭遇したが、ソウハ達によって一瞬で消滅させられ、そして村に着くと、一同は解散した。


 萌菜はソウハと共に家に入る。ソウハは自室に向かうとき、萌菜を見て、口を開いた。


「君は今後どうするか、できるだけ早く教えて欲しい」


 そう言うと、ソウハは自室に戻った。萌菜は客間に入ると、そのまま奥の襖を開け、縁側に座る。そして、夕焼けに赤く染まる空をぼーっと眺め始めた。日が沈み、辺りが暗闇に包まれても夜空を眺めていた。




「できるだけ早くなんて言われても、簡単には決められないよ」


 月を眺めながら、ぼんやりと考える。


「大阪が始まりの地なら、妖魔はたくさんいるだろうし、だからといって、ここの村に残るのもね……」


 退屈で、狂い死にしそうと、萌菜は思った。


 足音が聞こえた。萌菜は振り返って、足音の主を見上げた。


「夕の膳の準備が、整いました」


 ユズカだった。


「ありがとう。ユズカちゃん」


 萌菜は立ち上がって、座卓につく。


 四人揃ってはいるが、静かな食事を済ませる。そして萌菜は風呂から出ると、作務衣を着て布団に入った。


「ね、眠れない……」


 布団に入ってから、随分と時間が経っているはずだが、萌菜は眠れなかった。


 結局、萌菜が眠れたのは、明け方近くになってからだった。




 寝不足の酷い顔をした萌菜が、朝ごはんが並べられた座卓につく。今日はソウハたちは朝の修練をしてはいなかったが、結局、鳥のさえずりで、早くに起きた。


「う~、ね、眠い……」


 なんとか箸を動かしながら朝ごはんを食べる萌菜を見て、ソウハが顔を引き攣らせた。


「今日は、ユズカと村の中を見て回るとよい」


 食後、ソウハはそう言って、客間を出ていった。


 それから、萌菜はユズカの手伝いをして、食器を洗う。水道がなく、冷たい井戸水で洗う不便さを感じながらも、食器を洗い終えた。


 それが終わると、萌菜は作務衣のまま玄関でユズカを待つ。


 エプロンのような前掛けを外した、ユズカがやってきた。


「参りましょう。モエナ様」


 萌菜はユズカに様をつけて呼ばれたことに、苦笑した。


「モエナさんで、いいよ」


 明らかにオウメと同じ年ぐらいに見えるユズカに、さすがに呼び捨てにされるのは気が進まなかった。




 萌菜はユズカの案内で村を回り始めた。村長の家であるチヨ婆の家は塀で囲われていたが、ほとんどの家には塀はなく、小さい。だが、結構な数の家があるのがわかった。


「この村って、どれくらいの人が住んでいるの?」


「だいたい八百人ぐらいだと、聞いています」


 それから、歩きながら、萌菜はあれこれ聞いた。村を囲う木板の壁は、実は妖魔がすり抜けられないように、生きている蔓やコケによっておおわれていること。木曽には村が三十近くあること。ソウハが契約している仙樹、建速須佐之男命タケハヤスサノオノミコトを中心に他の仙樹や村が点在し、一番外側に仙樹の衛士が多く住む、木曽の守護村が東西南北にあり、この村は南の守護村だということなど。




「ここは八百屋です」


 しばらくすると、八百屋や肉屋などが並ぶ、一画に来た。


 店先で、色々な野菜やしいたけなどのキノコ類が揃っていることに驚きながら、きゅうりを見つめる。


「りっぱな、きゅうりだね」


 萌菜がまじまじときゅうりを見ていると、店主が顔を出した。


「お嬢ちゃん、ソウハ様が連れてきた子だろ。食べていきな」


 そう言って店主は、ヘタを切って、味噌をたっぷりと塗るようにつけたきゅうりを渡してくれた。


「ありがとうございます」


 萌菜とユズカは、きゅうりを食べながら歩き始めた。




 肉屋の前に来た。


 豚肉以外にも、いくつか種類があった。


「お肉って、豚以外だと、なにがあるの?」


「豚以外だと、鳥肉が一般的です。牛やイノシシ、鹿などもあります。豚、鳥、そして牛は中心の方の村で飼育されています。イノシシや鹿などの狩猟は男の人の仕事です」


「へ~」


 文明崩壊後なのに、食に関しては意外と揃っているんだと驚きながら、さらに村の中を見て回る。


 金物屋で、フライパンや包丁などの金属製品が売られているのを見たり、小川で女性たちが洗濯しているところを眺めたりした後、家に戻った。




 その夜、萌菜は布団に入りながら、またしてもどうすべきか悩んだが、答えをだせず、寝てしまった。だが、


『大阪に、大阪に行きなさい!』


 突如、頭の中で声が響き渡った。


「は、はい、わかりました!」


 萌菜は起き上がり思わず返事をしてしまった。


「最悪……なんなの、この声……大阪に行ったら、私なんて簡単に妖魔の餌食にされちゃうよ」


 死にに行けと言われているようで、随分と腹が立ったが、萌菜はふと思った。


(ソウハさんが来てくれたら、意外となんとかなるのかも?)


 萌菜は真剣に大阪に行くべきか、この村に住むべきか、検討し始めた。




 結局、萌菜は朝日が昇っても考えていた。そして朝ごはんを食べながら、ソウハをどうやって説得しようかと考える。


 ソウハは、時々向けられる萌菜の視線に怪訝になりながらも、食事を続けた。




「私、決めました」


 食後、ソウハとチヨ婆が席を立つ前に声をかけた。


「ほう、そうか。では、君の考えを聞こう」


 萌菜は、お腹にぐっと力をいれた。そして、ソウハを力強く見つめる。


「私、大阪に行きたいんです」


 ソウハとチヨ婆は、唖然とした。




「モエナ、だ、大丈夫か、気は、確かか?」


 チヨ婆が心配そうに萌菜を見た。


「も、もちろんです。私なりに色々と考えて、答えをだしました」


 ただでさえ、過去から来たなんていう、不確かな存在なのだ。だから、頭の中に響いた声については、言えなかった。


 だが、旅の安全はソウハしだいだ。なんとしてもソウハを説得しなくてはならない。


「ソウハさん、実は、」


 萌菜がソウハの説得を始めると、ソウハは掌を向け、萌菜を黙らした。


「静かに、考えている」


 ソウハは、しばらく目をつむり考えていた。


「いいいだろう。私も行こう」


 そして目を開くと、突然同行をすると言った。


「え?」


 萌菜は、ソウハから同行すると言われたことに、驚きを隠せなかった。そしてそれはチヨ婆も同じだった。


「衛士長である、そなたが言うべき言葉ではないぞ」


「分かっています。しかし道中は危険です。私が同行すべきでしょう」


「そもそも大阪に行かなくても良いではないか。モエナも、この村で暮らせばよい」


「お婆様、彼女については、昨日話した通りです。彼女には、なにか大阪に行かなくてはならない、特別な理由があるのでしょう。私はそれが、大変重要なことに思えます」


「そ、そんな不確かなことで……」


 チヨ婆は、ソウハを見たまま固まった。


 そしてソウハに意気込まれて、萌菜は億劫になった。


「チヨ婆さんの言う通りですよ。なんでしたら私一人でも……」


 日本人特有の、とりあえず一度は遠慮するという精神がでた。


「君一人では、無理だ」


 すぐに否定される。


「ちょっと、来なさい」


 そしてソウハは萌菜を、庭へと呼んだ。

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