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仙樹の君  作者: 霧島 隆瑛
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第10話ー2

「ソウハ様は、そこで休んでいてください。アケミ、オウメ、私たち三人でやるわよ」


サイカが、アケミとオウメに指示を出す。


「あったりまえ。ソウハ様を傷つけたことを、後悔させてやる。あの猿妖魔」


アケミが意気揚々と右手の短剣を突きつけ、オウメが頷く。そしてサイカの指示で、フォーメーションを取る。


オウメが正面、アケミが右、サイカが左だ。


猿のような妖魔は、ゆらりゆらりと体を揺らしながら、油断なく体のあちらこちらにある全ての複眼を向け、三人を観察する。


「サイカ姉、いく!」


アケミが掛け声とともに、突撃した。妖魔の半分以上の複眼が、アケミへと向く。


アケミは左右の手に持つ短剣に仙気を流しながら、袖をひるがえし鋭く振るう。だが妖魔は、ゆらりゆらりと酔拳のようなしなやかさで、アケミの連続攻撃をかわした。


そこにオウメが突撃する。同じく左右の拳に装着するメリケンに仙気を流しながら、連続で拳を繰り出す。オウメとアケミ、二人による連続攻撃は体捌きだけでは躱し切れないのか、妖魔は手を使い始めた。二人の樹器に触れないよう、正確に手や手首にだけ一瞬触れ、攻撃を逸らす。アケミとオウメは戦衣をはためかせ、素早い攻撃を仕掛けるが、一撃も当てることができなかった。


「なんだよ、こいつ。なんで当たらないんだ」


アケミが苛立ちながらも、戦衣の袖をひるがえし、鋭く左右の短剣を繰り出す。


そしてサイカは一撃で消滅させるために、槍に大量の仙気を込めていた。機会を伺いながら、仙気を限界まで込めていく。サイカの槍から仙気のオーラが迸るのを、妖魔はいくつかの複眼を向け、注意深く見ていた。アケミの攻撃を避けた瞬間、オウメの拳が一発ヒットする。わずかに妖魔の体がよろけた。


「消えなさい!」


その隙をつくようにサイカが一気に距離を詰め、鋭い突きを繰り出した。だが猿のような妖魔は、空中へ跳びあがりながら背中の鎌を振るう。


オウメが額を斬られ、血が滴った。そして膝をつく。


妖魔はそのまま空中で、今度はアケミに向けて鎌を振るう。アケミは寸前のところで躱した。


そこにサイカがもう一度鋭い突きを放つ。一つの複眼に当たった。


猿のような妖魔は地面に落ちた。


留めとばかり、サイカがもう一度攻撃するが、妖魔は跳びあがると、木の上に逃れた。


「こいつ、なぜだ? サイカ姉があれほど仙気を溜めた一撃を喰らって、動けるなんて……」


猿のような妖魔は、少し苦しそうに呼吸をしていたが、いっこうに消滅する気配はなかった。そして、サイカによって消しとばされた複眼があったであろう肩の穴をみると、叫ぶ。


「キシャァァァァ!」


その瞬間、複眼が復活した。


「嘘だろ……」


妖魔の体が再生するところを見たことが無いアケミは、驚いて妖魔を見る。


「オウメ、大丈夫?」


そしてサイカは、オウメの怪我をみていた。


「そんなに傷は深くはないわ。大丈夫、仙気を流しておけば、数時間で塞がるわ」


オウメは頷くと、立ち上がって妖魔を睨んだ。


「三人とも気をつけなさい。あの妖魔の幾つもある目は、妖魔の本体とはいえないのだろう。確実に滅するためには、体を狙いなさい!」


ソウハの注意が響き渡る。


その瞬間、妖魔の背中の鎌が外れて宙を漂い始めた。いや、よく見ると、赤黒く光る細い糸でつながっている。どうやら、妖力の糸で操っているようだ。


妖魔は眼下の三人を睨むと、跳んだ。そのまま落下して、激しい攻撃を繰り出す。左右の手の爪でオウメに対し連続攻撃を繰り出し、サイカとアケミには鎌で攻撃をする。


「この鎌、厄介ね」


不規則な軌道から攻撃される鎌に、アケミとサイカは防戦一方だ。妖魔に近寄ることも出来ない。オウメも妖魔の攻撃を避けるのに必死で、反撃する余裕はなかった。


「サイカ姉、突撃」


突如アケミが叫ぶ。その一言でサイカは察した。鎌によって斬られるのを気にせず、妖魔に詰め寄る。妖魔のほとんどの目がサイカに向けられた。


サイカは致命傷を避けながら、鋭い突きを妖魔の体の中心へ繰り出す。


それを妖魔が身を捻って躱した。


だが、その瞬間アケミの一撃が妖魔の頭へと鋭く振るわれた。


妖魔の注意がサイカに向いた瞬間、アケミは木々を利用して、空高く跳んでいたのだった。


妖魔がのけぞり、動きを止めた。


そこにオウメが連続で拳を繰り出す。


「ハァァァァァ」


オウメがまだ幼い声で雄たけびを上げながら、左右の拳を次々と妖魔へ叩き込んでいく。


妖魔は吹き飛び転がった。


サイカが再び槍に仙気を込めていく。


跳ね起きた妖魔が三人を睨むと、突如威圧が増した。妖魔の体から妖力の赤黒い凄まじいオーラが噴き出すと、筋肉が膨れる。


そして体を捻る。


「二人共、注意して!」


サイカの叫びと、妖魔が体を回転させたのは同時だった。背中の鎌が伸び、辺り一面を薙ぎ払った。


その瞬間、サイカは仙気で足を強化して、全力で後方に跳んでいた。


オウメは、瞬時に地面に伏せた。


そしてアケミは、再び宙へと跳んでいた。


何本もの木々が切り倒され、倒れる音が辺り一面に響いた。


妖魔はそのまま、地面に伏せるオウメへと突撃する。


オウメが顔を上げ、妖魔を見る。圧倒的な妖力を漂わせ突撃してくる妖魔を見て、オウメの顔が青ざめる。


オウメの顔へ、妖魔の手突が鋭く迫った。


だが、その瞬間アケミは妖魔の肩に着地していた。


「この野郎!」


アケミは叫ぶと、両手に持つ短剣を妖魔の頭に押し当てる。


「グギィィ!」


アケミの仙気を流され、妖魔が悶えた。


「ハァァァァァァ」


オウメが立ち上がり、再び妖魔に拳を繰り出す。


そしてサイカは今一度、槍に仙気を溜めていた。サイカの槍からオーラが迸る。


「もっと、もっと溜めないと……二人共、頑張って!」


妖魔が苦しそうに腕や鎌を振り回すが、アケミは器用に妖魔の肩に乗ったまま避け、オウメは背中に回り込んだ。


妖魔が叫び声を上げながら、膝をつく。


「消えなさい!」


そこにサイカが戦衣をはためかせ、一気に距離を詰める。強烈なオーラが迸るサイカの槍が、妖魔の胸へと吸い込まれていく。触れた瞬間、光と共に妖魔の胸が消し飛んだ。


アケミが舞うように見事な空中捻りを披露しながら、着地する。


妖魔は一歩二歩と後ずさりながら、不敵な笑みを浮かべた。


「ゼツボウニオノノケ、ニンゲン……」


捨て台詞を残して、猿のような妖魔は消滅した。




「やった……」


アケミはサイカとオウメに振り返り、笑った。


「二人共、よく頑張ったわ」


サイカが、アケミとオウメを労う。


「サイカさん……大丈夫?」


オウメが近寄り、サイカの傷を心配した。


「大丈夫よ。どれもかすり傷だから」


そして三人はお互いの健闘をたたえ合うと、萌菜とソウハのもとへ向かう。


「ソウハ様、移動しましょう。まだ、この場所は危険です」


サイカが声をかけ、座っていたソウハに手を伸ばしたとき、驚愕に目を見開いて森の奥を睨んだ。


「サイカも気付いたか……」


ソウハが苦々しい表情で、呟いた。


「はい。なんですか、この禍々しいまでの妖力は……」


「どうしたんですか?」


萌菜は明らかに動揺した顔で森の奥を見ている二人を、不思議に思った。


アケミとオウメも、始めは萌菜と同じようにサイカとソウハの態度を訝しそうに見ていたが、すぐにアケミは目を見開いて、同じように森の奥を見つめる。オウメも少し遅れて森の奥を見つめ始めた。


「どうしたんですか、皆さん?」


萌菜も様子のおかしい四人を訝しがっていたが、突如その顔が青ざめ、震えはじめた。


「な、なに、この感じ……」


萌菜はがたがたと震えながら、ソウハの腕にしがみつく。


「来るぞ……」


森の奥から、凄まじい速度でそれは駆けてきた。


萌菜はその熊のような大きな鎧姿の妖魔を震えながら見つめる。


「魔将ミツナリ……」


ソウハの呟きに驚いたのは、萌菜だけではなかった。サイカもアケミもオウメも、驚いていた。


「あれが、魔将ミツナリ……」


どうやら見知っているのは、ソウハだけだった。


「ソウハ様、戦ったことがあるのですか?」


サイカが、額に汗をにじませながらも、油断なくミツナリを見つめながら聞く。


「ああ、六年前、岐阜の衛士たちとともに、魔将ミツナリ討伐に赴いたことがあるのだ……」


「まだ魔将ミツナリがいるということは……」


アケミがソウハを見た。


「そうだ。我々は負けた。だがあのときミツナリの周りには、先程の猿の妖魔や、ひょろ長い触手の妖魔などの上級妖魔が何匹もいた。もちろん、低級妖魔は無数にな」


「けど、今はミツナリ一匹……」


アケミがミツナリを見つめて、短剣を握りしめた。


「これはある意味好機だ。だが、あの時の妖力よりもあきらかに強くなっている。だから、無理だとわかったら逃げる」


「わかりました。私たち三人でやってみます。いいわねアケミ、オウメ」


「もちろん。ここで魔将ミツナリをやったら、私たち英雄だよね」


アケミが不敵に笑った。


「意気込んで、一人で突出したらダメよ」


「わかってるって」


サイカの注意に、アケミは頷く。


サイカ、アケミ、オウメの三人は仙気を滾らせながら、ゆっくりとミツナリとの距離を詰めていった。

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