第七話 束の間の休息、そして……。
「ほら、今日はいよいよお前だ。北野……いや、晴香。後で俺の部屋に来い。」
私は、そうケンジくんに命令されます。
本当は嫌なのですが、何故か逆らう事が出来ません。
あのときもそうでした。
私の脳裏を過るのは、あのときの彼の顔……。
裏切られたと言う、悲しくて、絶望に満ちて、そして……怒りへと変わった形相。
思い出すだけで、恐ろしく悲しい……。
私は、なぜあのとき、立ち去ってしまったのだろう?
あのとき、鍵を開けるだけで彼らは助かったはずだ。
だけど、私にはできなかった……。
なぜなら、ケンジ君にそう言われてたから……。
「何もせず戻ってこい」って……。
「……晴香です。」
私はケンジくんの部屋の扉をノックして名乗る。
「おぅ、入ってこい。」
私がドアを開けると、入れ替わるように裸の少女が、逃げるように去って行きました。
………今の子は、となりのクラスの……。
ケンジくんの、リーダー性は間違い無いはずです。
ここがダンジョンの中だと言うことは、もうみんな理解しています。
私達では敵わない魔物の脅威から逃れ、安心して眠れる場所を得ることができたのは、ひとえに彼の手腕のおかげです。
彼が、バラバラになるところだった私達をまとめ上げ、各自に適した行動を指示することで、危険を最小限にまで減らし、効率よく安全地帯を作り上げました。
これは彼でなければできなかったことでしょう。……たとえ、それがスキルのおかげだったとしても。
そして、彼は「自分が皆を救ってやった」と、行動がどんどん尊大になっていきました。
最近は、女の子たちを呼び出して奉仕をさせているという噂でしたが……。
「噂じゃなかったんだ。」
私は、なぜケンジくんが呼び出したのか?この後、何が起きるのか?ということを予想して、身が震えます。
……大丈夫。そんな事しない。
私は彼方くんのモノだもん。
そう決意して、部屋の中に足を踏み入れるのでした……。
.
.
.
……クスン……汚されちゃったよぉ。
彼方ぁ、ごめんねぇ。
心のなかで、彼方に謝ります。
だけど、彼方はもぅ……。
しかも、結果だけで見れば、私が見殺しにしたと言えなくもなく……と言うより、彼方からみれば、そうとしか見えなかったでしょう。
先程、ケンジくんのスキルの力を教えてもらいました。
彼は、私たちがダンジョンに飲み込まれた後、スキルが顕現したそうです。
彼の力は、彼をリーダーとして認めた相手を支配する、というものです。
彼の支配下になった者は、身体能力やスキルの力が向上する代わりに、彼の命令には従わなければいけなくなるそうです。
私も、知らない間に、彼の支配下になっていたようで、彼の言うことに逆らうことができませんでした。
「うぅ~っ、彼方ぁ……ごめんねぇ……。」
胸を過るのは彼方への罪悪感。
自分の意志ではないとはいえ、彼を見殺しにしてしまったという事実。
「……力の無い私達が生きていくには……こうするしか無いんだよ………。」
ケンジを受け入れてしまったことに対する言い訳を口に出しながら、ヨロヨロと与えられた部屋へ向かう……。
このときの私は、彼方がまだ生きていること、そしてその側に別の女の子がいる事など、知る由もなかったのです。
◇ ◇ ◇
「えっと、なんでこんな事に?」
俺は戸惑っていた。
昨日は色々あったのと、安心して休める場所を得た安心感、そして久し振りのベッドということもあり、食事の後、俺も美也子も早々に眠りについた……筈だった。
しかし、ふと目を覚ますと、隣のベッドで寝ていた筈の美也子が俺の横にいる……しかも、おそらくは全裸だ。
美也子は、俺が渡したTシャツ以外は、この部屋に飾ってあったエプロンしか、衣類を持っていないから、そのTシャツを脱いでいるということは……全裸……ということで……。
シーツを捲れば、そこには夢のような光景が………。
俺が、捲るべきか捲くらざるべきか、と悩んでいると、美也子が目を開ける。
そして一瞬キョロキョロした後、俺と目が合う。
「えっと、これは、その……。」
俺は慌てて言い訳をしようとする。
しかし、なんで俺が言い訳を?
そんな疑問が少し過るが、今はそれより……って、えぇっ!
美也子が抱き着いてきたのだ。
「あ、あのぉ、美也子さん?一体何を……。ひょっとして、寝ぼけてらっしゃる?」
「だってぇ……。こうしないと見えちゃうから……。」
美也子が小さな声でそういう。
……なんですか、この可愛い生き物は……。
……えっと、こういう時は、手を……。
俺は、時間をかけて、彼女の背中に、手を回して、少しだけ力を込める。
美也子は、一瞬、ビクッと身体を強張らせるが、すぐに安心したように、俺に体重を預けてくる。
しばらくそうしていると、やがて美也子が、口を開く。
「ねぇ、私達、もっとお互いのことを知るべきだと思うの。」
「お互いの?」
「そう。何が好きだとか、彼女がいるのかとか……。因みに私はフリーだからね。」
美也子はそう言って、妖しく微笑む。
そして、美也子は、あの時から俺に会うまでのことを簡単に説明してくれた。
美也子たちB組の連中は、まとまりが無く、あのとき我先にと昇降口に向かったそうだ。…
都が昇降口にいたのは、同じように逃げ出そうとした……訳ではなく、単に周りに流されただけだったと言う。
「一応、皆を止めようとは思ってたんだよ。……誰も聞いてくれなかったけど。」
結局大半は魔物の餌食となり、俺が助けた美也子の、後を追いかけた者達十数人だけが生き延びたと言う。
「そんな時にね、C組の檜山君から合同で脱出する話が来たんだよ。」
俺は美也子の口から健司の名前が出てきたことに驚くが、同時に納得もできた。
「それで上手く利用されたわけだ。」
俺がそういうと、美也子は悲しそうに頷く。
「うん、檜山くんはいいことばかり言ってたけど、何かね、違うって感じがしたの……上手く言えないんだけど……。」
「その感覚は正しいよ。」
俺がそう言うと、美也子も頷く。
「ウン、でもその核心が持てた時は手遅れだったけどね。」
健司は、他のクラスにも声をかけていて、役に立ちそうなものとそれ以外に分けていたらしく、「役立たず」と決められた美也子達は、健司達が逃げるための囮にされたということだった。
「……まぁ、そうだろうな。」
俺は美也子に、健司と意見を違えていたこと、その結果騙されて囮にされたことなどを話す。
このときの俺は、身体にダイレクトに伝わる美也子の柔らかさに気を抜いていたのだろう。話さなくていいことまで話してしまう。……晴香の事を……。
「そっかぁ、彼方は元カノに酷い事されたんだねぇ。」
美也子が、俺を抱きしめる腕に力を込める。
「えっとね……私は……彼方を裏切る事しないよ。もし違える事があったら……その時は私を殺してもいいから……」
「美也子……。」
「エヘっ。私は彼方に命を救われたんだよ。それも2回も。彼方がいなかったら、私はここにいないの……。だから……ね?」
美也子は少しはにかみながら俺を見上げ……そして、そっと目を瞑る。
俺は、そんな美也子に顔を近づけていき、そして……。
二人を隔てる壁が取り除かれた瞬間だった……。
晴香ちゃん退場と、美也子ちゃんヒロインへ昇格でした。
うーん、段々と18禁版とズレが生じていきそうな予感。
ご意見、ご感想等お待ちしております。
良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。