表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/24

第五話 美也子

「助かった……のかな?」

私は、目が覚めた後、周りを見回し、目の前にいる男がいるのに気づく。

「助けたわけじゃない。」

私はぶっきらぼうに言う彼の言葉を聞きながら、そっと手を動かしてみる……うん、大丈夫、身体は動く。

だから……。

私は彼のそばに寄り添い、囁くように言います。

「……助けてくれて……ありがと……。」

「たまたまだって言ってるだろ。たまたま通りがかったら、魔物が隙だらけだったら、経験値になってもらっただけだ。」

「ウソです。」

彼の言い訳を私はきっぱりと切り捨てます。

本当に彼の言うとおりであれば、私をそのまま放置したはずです。

その方が面倒がありませんから。

それに彼が私を助けてくれたのは、これで2度目です。……彼は覚えてないかもしれませんが……。

「フンッ。」

とそっぽを向く彼ですが、その動きがおかしいのに気付きます。

「ひょっとして、左腕……。」

「これはその前の事だ。アンタを助けた時のモノじゃない。」

相変わらずぶっきらぼうに言いますが……「助けた」って言ってるの気づいてます?


私は、彼の腕を取り、自分の胸元へ抱き寄せ、そのまま『治って……』と祈ります。

しばらくすると彼の腕が光に包まれ、その光が消え去ったところで彼の腕を解放します。

「えっ?」

彼は驚いた顔をして左腕を振ったり、手のひらを握ったり開いたりしています。

これは私に与えられたスキル『絶対治癒(みんないやしちゃうゾ)』の力です。

熟練度が上がれば、死後1時間以内であれば蘇生も可能になるとか……。

これはあまり知られちゃいけない気もしますが、恩人相手ならいいですよね。


「なぁ……お前のスキルか?」

彼が探るように聞いてきます。

私はコクリと頷きます。

「……こっちも治せるか?」

彼は左足を差します。そこも、腕程ではないですが酷い怪我の後があります。

先日助けられた時は、そんなことなかったので、ごく最近の怪我であることは間違いないです。

一体、この数日の間に、彼に何があったのでしょうか?

私は黙って、彼の左足……太ももに手を触れます。

少しすると、左腕の時のように光が集まり彼の傷をいやしていきます。


彼の足の傷が治った途端、私の身体がぐらりと揺れます。

「おっと。」

倒れそうになった私を、彼が優しく受け止めてくれます。

……ダメです。二度も命を助けられた上に、このように優しくされたら……。

「ねぇ、名前……聞いてない……。」

本当は別の事がいいたかったのですが、それはまだ早いと自重します。

「そう言えばそうだな。俺もお前の名前知らん。」

「私は美也子……葛城美也子。」

「あぁ、B組の委員長の。俺は彼方だ。椚木彼方。」

「そっか、彼方くん……責任、取ってね。」

……ダメ、想いが溢れちゃう。私ってこんなにチョロかった?

だから思わず、こんな風にした責任を取ってね、という気持ちが口をついて出てしまったのに……。

「ヤダ。」

「なんでだよぉ。普通そこは、「なんの」とか聞くところでしょ?なのに即答って……。」

私はわかりました。彼……彼方は優しいけど意地悪です。

私は彼にギュッとしがみつきながらしばらくの間、彼に温かさを堪能するのでした。

◇ ◇ ◇


……驚いたな。

俺はしがみついて、すぅすぅと寝息を立てている彼女……美也子を見ながら考える。

美也子が寝ているのは、俺を治癒したことによってマナが枯渇したせいだろう。

ゲームでいうならMP不足ってところか。


俺の腕を()()治した、あのデミヒュドラがドロップしたポーションはC級だった。

C級は一定程度の怪我であれば一瞬で治癒するというもの。

しかし、そんなポーションを使っても、止血をし、裂傷を塞ぐだけで精一杯だった左腕。

つまり、俺の腕の怪我はC級では治らないというほど酷いものだった。

それを一瞬で治してしまったという事は、彼女の力は少なくともB級以上という事になる。


「これは、確保するべきだな。」

驚いたことに、彼女からは好意を寄せられているらしい……なら、その好意を利用して、俺の為に力を使わせよう。そして裏切られることのない様に……いや違うか。裏切られてもいい様に行動するべきだな。

利用はしても信用しない。うん、このスタンスだな。


しかし、ここで回復役を手に入れたのはラッキーだったかもしれない。

人が増えれば、戦えない足手まといが増えるだけ。

そう思って、俺は誰かを見つけても助ける気はなかったのだが、彼女の場合、足手まといには違いないが、それを補って有り余るほどのスキルを持っている。

ならば、これからは、有用なスキルを持っている奴なら助けるのもありかもしれないと、考え方を修正する。


「まぁ、取り敢えずは、拠点確保のための移動だな。」

俺は寝ている美也子を起こす。

このままでは、朝を迎える前に魔物に襲われてしまうかもしれない。

「ん~……しゅきぃ……。」

ん~と、突き出してくる美也子の唇。

これは……いいのか?

俺は戸惑いながらも、ちゅっと、軽く自分の唇を合わせ、そのまま起こす。

うん、据え膳を食わないのは恥だからな。


「移動するぞ?」

俺は誤魔化すようにそう言って、保健室の中のベッドや薬品、ついでに教師の私物であろう衣類をドレッサーごと仕舞い込む。

「えっ、えっ、えっ?」

目の前でベッドや色々なものが消えたことに驚く美也子。

「俺のスキルだ。」

俺はそれだけを言って、めぼしいものを片っ端から収納する。

「あの……。」

「なんだ?」

「移動って……どちらへ?」

「決めてないが、特別等の2階の予定だ。」

渡り廊下を渡った先が特別等だ。

そこには化学室や調理室などの実習教室が集まっているので、押さえておきたい場所だ。

「……ここじゃ、いけないんですか?」

「魔物に襲われたいなら構わんが、俺は嫌だぞ?」

残りたいなら一人で残れ、という俺の無言の圧力が聞いたのか、美也子はのろのろと俺の後についてくる。

「あのぉ……。」

「まだ何か?」

「いえ、着替えとまでは言いませんが、何か羽織るものがないかなぁ、と。」

みると、美也子は、胸を手で隠しながらモジモジとしている。

そう言えば、今着ているモノはトレントに切り裂かれてボロボロなんだよなぁ。

少しでも動けば、見えてしまう。

それはそれで、と思うのは男のサガだから仕方がないのだが……何かあったかな?

教室からむしったカーテンがあるが、それだと動きがかなり阻害されそうだ。

でも仕方がないか、と思い、渡そうとしてから思い出す。

……そう言えば、家の中の物面白半分に収納してそのままだっけか。

俺は収納の俺のクローゼットの中から無地の白いTシャツを取り出して、美也子に渡す。

「これでも羽織っておけ。」

「あ、はい、ありがとう。」

美也子は喜んで、俺のTシャツを羽織る。

「えっと……ちょっと恥ずかしい。」

「ないよりマシだろ?」

俺はそう言いながら美也子を見る。

俺のだから、小柄な美也子には大きく、裾がちょうど大事なところを隠している……が少しでも激しく動けば丸見えだ。

上の方は、美也子の立派なモノが中から押し上げているので、タプタプしてはいないが、かがめば谷間がポロリとしそう……うん、問題ないな。


「あの……下着……なんてないよね?」

「……俺が女物の下着なんて持っているように見えるか?」

「だよねぇ、ごめんなさい。」

「いいじゃねぇか、だれも見てないんだし。」

「うぅ、彼方くんが見てるよぉ。」

確かに、この美也子の姿は、ローアングルで眺めていたい……と本音が漏れそうになるが、美也子はすでに涙目になっている。

さすがに少しの罪悪感が顔を覗かす。

「わかったよ。俺が前を歩くから、後ろからついてこい。あまり離れるんじゃねぇぞ。」

人間不信気味になっているものの、元々、困っている人を放っておけないたちだった俺は、自分で思っているより悪人になり切れていないらしい。

……甘いなぁ、と自嘲するが、そんな自分を嫌いになれずにいた。


1階の渡り廊下を行くより、2階から渡ったほうが危険は少ない。

ちょうど保健室の横が階段だし、ちょうどいいと考えたのだが、世の中そう甘くは出来ていないようだ。


瓦礫で塞がれた2階の渡り廊下を見上げ、俺はため息をついた。

「仕方ない、1階に降りよう」と美也子に告げ、階段を下りる。


1階の渡り廊下は薄暗く、冷たい空気が肌を刺すようだった。

緊張感が漂う中、俺たちは慎重に進んでいく。

しかし、その時――突然、横から木々のざわめきと共に巨大な影が襲いかかってきた。


「ちっ!トレントかっ!」

俺はとっさに美也子をかばい、咄嗟に身をかわした。

古びた木の枝が床に叩きつけられ、そこに深い傷跡を残す。


「気を付けろ、美也子!こいつは普通の木じゃない!」と、俺は警告しながらトレントの動きを見極める。

トレントは怒りに満ちた目で俺たちを見下ろし、その巨大な腕を振り上げる。


「やるしかないか!」

俺は収納から「くさないだー」を取り出し、トレントに向けて県を構える。


トレントがその巨大な腕を振り下ろしてくる瞬間、俺は素早く美也子を後方へ押しやり、自らは前に出た。

が震え、衝撃で瓦礫が舞い上がる。

巨大な枝が砕け散る音が耳をつんざくが、俺は怯むことなくトレントを睨みつける。


「美也子、後ろから援護してくれ!」


「えっ、えっ、……援護って、どうすれば……。」

美也子はオロオロとするばかり。

「そこらの石でも拾って投げれば、そっちに気が行くだろっ!」

俺はそう言いながら、トレントの足元を狙って突進する。

トレントは再び腕を振り上げ、俺が近づけないように威嚇する。


「こいつ…賢いな」

俺のもつ「くさないだー」は、植物性の敵に対して大きな特効があるらしい。

トレントなら、クリティカルが出れば一撃だというのは、さっきの例で分かっている。

クリティカルが出なくても、2~3撃食らわせればいいだろう。

そのためにも、初撃を何とか入れたいのだが、トレントは俺を注視していて隙を見せない。

「えいっ、えいっ!」

後ろでは、美也子が必死になって石を投げている。

その陰声が場違いに可愛らしく、気が抜けそうだ。

美也子が投げた石は殆ど当たらず、トレントも気に求めていなかったが、それでも数発に一度、こつん、こつんと当たったりしている。

ダメージはほとんどないのだろうが、煩わしかったらしく、少し大きめの石が当たったとき、トレントは木の根を、美也子に向けて伸ばす。


……今だっ!

トレントの気が逸れた隙をついて、俺はトレントとの間合いへ入り込み、「くさないだー」の一撃を叩きこむ。

トレントは怒り狂い、さらに激しく攻撃を繰り出してくる。

枝や根がまるで生き物のように動き、俺の周りを絡め取ろうとする。

が、もう遅い。

「邪魔なんだよっ!!」

俺はニ撃、三撃と剣を振るう。

トレントは苦痛の咆哮を上げ、身体を激しく揺らし始めた。

その隙を逃さず、俺はトレントの弱点と思われる箇所を狙い、剣を深く突き刺すと、トレントの動きが鈍くなり動かなくなる。


「とどめよっ!!」

美也子は、どこから持ってきたのか、一抱えもある石を持ってよろよろとトレントに近づき、その上に堕とす。

更にはそれをもう一度持ち上げて堕とす……堕とす……堕とす……。

余程の恨みがあるのだろうか?

美也子の「石落とし」は、トレントが光の粒子になって消えるまで続いた。

「ふぅ、少しは恨みが晴れたわ。」

ヤり切った感を出した、いい笑顔の美也子がそんなことを言う。

そう言えば、トレントに襲われていたんだっけ?


「美也子、大丈夫か?」

みれば無事なのはわかっているが、俺は一応美也子に声をかける。

美也子は少し息を切らしていたが、頷いて笑みを浮かべた。


「ええ、なんとか。でも、油断は禁物だね。この先にも魔物がいるんでしょ?」

「たぶん……な。」

多分というより、特別等の扉の向こうには絶対いるだろう。

戦う必要はない。魔物を躱して階段を上がることさえできれば、当面はそれでいい。


俺たちは再び歩き出し、ゆっくりと特別等を目指して進んでいった。

普段であればあっという間の渡り廊下の距離が、今は果てしなく遠く思えるのだった。

今回R18の方を先に書いてみました。

R18を後から各場合、基本加算になります。

全年齢版に、えちえちなシーンを挿入し、前後の文脈を整えたり、プラスアルファーの要素を咥えたりしています。

逆に今回みたいなR18を先に書く場合、基本減算になります。

えちえちなシーンを削除して、前後の文脈を修正。

エッチありの文章を、エッチがなかったことにして書き直すわけですね。

どっちが書きやすいかと言えば……

どっちも面倒!

これが結論ですw



ご意見、ご感想等お待ちしております。

良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ