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第三話 裏切り

俺は昇降口の混乱から何とか逃れて、教室に戻ってきた。

俺達が教室に入ると、教室のドアの前に机の山が並べられた。

バリケードで魔物の侵入を防ごうというらしい。

俺はその指示をしている男へ視線を向ける。

桧山健司。バスケ部のエースでモテるイケメンだ。

彼は教室の中央でリーダーシップを発揮し、生徒たちに指示を出している。


「落ち着け、みんな!ここでしっかり対策を立てるんだ!」

しかし、俺が教室に入ると、桧山は一瞬俺に目を向け、少しだけ嫌そうな顔をした。

「お前か…まあ、いいや。ところで、食料はすでに皆で分けちまったんだ。だから、お前の分はないぞ」

桧山の言葉に、俺は少し驚いたが、すぐに答えた。

「それなら心配ない。俺は昼食用のコンビニ弁当があるから」

だが、その言葉を聞いた途端、桧山は険しい顔をして俺に詰め寄ってきた。


「なに?だったら、それを皆で分けるために出せよ。今は皆が協力する時だろ?」

「待てよ、それはおかしいだろ。俺の昼食を勝手に分けるなんて…大体、お前らは昼飯食ったんだろ?」

俺は桧山に反論したが、彼は譲らなかった。

「それとこれとは別だ。今は非常時なんだぞ!全員が生き残るためには、誰もが協力しなきゃならないんだ!」


「いやいや、それを言うなら、お前、さっき俺に食料を渡す気なかっただろ?なのに取り上げるってそっちの方がおかしいじゃないかよ。渡す気がないくせに、取り上げる?おかしいだろ?」


二人の間で緊張が高まる。俺は自分の立場を守ろうとするが、桧山も負けじと迫ってくる。

教室内の他の生徒たちは、俺たちの言い争いを見ているが、誰も間に入ろうとしない。……が、皆、桧山の言う子tの方が正しいと思っているみたいだ。

このままでは、状況はどんどん険悪になっていくばかりだ。何とかしないと……。

「今は非常時だ、桧山。でも、だからこそ冷静にならないと、状況はもっと悪くなるぞ」

俺はそう言って、桧山を説得しようとするが、彼は納得していない……というか自分が正しいと信じて疑わない。

このまま言い合いを続けるのか、それとも他の方法を見つけるのか、俺は決断を迫られていた。


結局、この場を乱しても仕方がないという事で俺が折れる。

しかし、この場には30人近い生徒がいるんだが、コンビニ弁当一つをどうやって分ける気なのかね?



「あ、彼方君。呼び出してゴメンね。」

「あぁ、しかしいいのか?」

「うん、大丈夫。みんなやってるからね。」

「あ、いや……まいっか。」

俺がいいのか?と尋ねたのは、下手に教室を抜け出していいのか?という事だ。

今のところ、この教室のある三階には魔物の気配はない。

夕方、偵察に行った部隊の報告によると、魔物は1階でしか確認されていないという。

だからと言って安心できるわけでもないが……って、まぁいいか。

月明かりが静かに地面を照らし、夜の静寂が周囲を包んでいた。晴香は、俺を見つけると、もじもじと恥ずかしそうにしていた。


「それで…、こんな時間にどうしたんだ?」

俺が尋ねると、晴香は一瞬ためらったが、やがて深呼吸をして、勇気を振り絞ったように口を開いた。


「彼方くん…私、ずっとあなたのことが好きだったの」

その言葉を聞いた瞬間、俺は驚きで言葉を失った。

まさか、こんな突然の告白を受けるとは思っていなかった。

春香は必死な表情で、俺の反応を待っている。


どう答えるべきか悩んだが、彼女の真剣な瞳に見つめられ、自然と気持ちが固まった。

「…俺も、北……晴香のことが気になってた。たぶん、好きなんだと……思う。これからは一緒に居てくれると……嬉しい。」

そう言うと、晴香の表情が一気に明るくなり、安堵の笑みを浮かべた。

そして、俺の胸の中にボスンと飛び込んでくる。

「よかったぁ。断られたらどうしようかと思ったよぉ。」

俺はそんな晴香の背中に手を回し、優しく包み込むように抱きしめる。

晴香はそんな俺の顔を見上げると、そっと唇を突き出す。

二人の距離がどんどん縮まっていき、やがてその距離が0になる瞬間、窓から差し込む月の明かりが優しく俺たちを包み込んでいた。


静かで穏やかな夜、俺たちはお互いの気持ちを確かめ合い、新たな一歩を踏み出した。



「だから、それは悪手だって言ってるだろ?」


ケンジと意見が食い違うのは、こういう緊迫した状況では避けられないことだ。

校舎からの脱出を考えていた俺は、少人数での行動が最善だと提案していた。

魔物の隙を突いて、少ない人数で慎重に動けば、誰かが外に出ることができるかもしれない。

そして外に出た者が助けを呼ぶことができれば、状況は一気に好転するだろう。


「少人数で動けば、俺たちの存在を魔物に気づかれるリスクも減る。最悪、犠牲者を出さずに脱出できる可能性だってあるんだ」

俺は真剣にケンジにそう訴えたが、彼は首を振った。

「いや、俺は大勢で行動するべきだと思う。他の教室に残っている奴らを見捨てるわけにはいかない。みんなで一斉に正面突破すれば、魔物も対応できないはずだ」


その言葉を聞いて、俺は愕然とした。

ケンジの言葉に正義感があるのはわかる。だが、それはあまりにもリスクが高すぎる。

「正面突破なんて無謀だ!みんなで一斉に動けば、それだけ目立って、魔物に一気に襲われる。犠牲が出るに決まってる」

俺は声を荒げてしまった。

確かに、全員で力を合わせることは大事だ。でも、命を無駄にするような行動を取るべきではない。


「でも、俺たちだけ助かって、それでいいのか?」

ケンジは険しい顔で言い返してきた。

「みんなを見捨てて自分たちだけ逃げるなんて、そんなの…」

そのケンジの言葉に、周りの生徒たちも頷く。

なんとなくだが、他の生徒たちの様子がおかしい。

自分で考えることもせず、盲目的にケンジに従っているだけのような感じがするのだ。

確かに、こういう非常時には、先頭に立って色々やってくれるリーダーの存在というのはありがたいのだが……。


「見捨てるわけじゃない。少人数で行動するのは、全員を助けるための方法なんだ。外に出て助けを呼べれば、みんなを救うことができるんだぞ!」

俺たちの間で緊張が高まる。

どちらの意見も、それぞれの信念に基づいていたが、その結論は真逆だった。

この状況での判断が、皆の生死を左右する。

どちらの方法が正しいのか、答えは簡単には出ない……はずなのだが、生徒の殆どはケンジを支持している。

ここで多数決などを取ろうものなら、集団自殺に向けて一直線だ。それだけは避けたい。

いや、晴香をそんな目に合わせるわけにはいかない。

その想いだけで、俺はケンジの説得を試みる。


「ケンジ、考え直してくれ。無謀な行動で仲間を危険にさらすわけにはいかないんだ」

俺は懸命に説得しようとしたが、ケンジの目にはまだ固い決意が宿っていた。

どれだけの犠牲が出るか、その覚悟を彼が本当に理解しているのか…俺は心の中で不安を感じながら、彼の返答を待った。


長い説得の末、ようやくケンジが折れてくれた。しかし、その少人数を率いるのは俺だと言う。

言い出しっぺである以上、それは当然のことだと考えていたが、ケンジの瞳の奥に何か昏い影を感じ取ったような気がして、それが心に引っかかった。

彼が何を考えているのか、その影の正体が何なのかはわからないが、これからの行動においてその影が現実となるかもしれない不安が頭をもたげる。


作戦の決行は翌々日に決まり、その前日は全員が準備に専念することとなった。

驚いたことに、ケンジはそれまでとは打って変わって非常に協力的だった。

表面的には何も問題ないように見えるが、どこか薄気味悪さを覚えざるを得なかった。


そして作戦決行日。

1階の昇降口とは真逆の場所に、体育館への渡り通路がある。

その途中に非常口があり、そこから外に出れば、目の前に隠し通路がある。

そこを使って俺たちは外へ出る予定だった。


「彼方……。」

晴香が心配そうな顔で俺を見つめる。

「大丈夫だ。すぐ助けを連れて戻ってくるよ。」

俺は、他のみんなから見えない角度で、チュッと晴香の唇に軽いキスをする。

「じゃぁ行ってくる。」

俺は、晴香に別れを告げると、教室を出て階段を下りる。

今回俺と行動を共にするのは5人。

皆ケンジとは意見を異にする奴らばかりだった。

とはいえ、俺に賛同しているわけでもない。

そう考えると、今ここにいるのは、みんなケンジの言う事を聞かない奴らばかりになる。そう思いいたったとき、何か嫌な予感を感じた。


「おい、そぉっとだ。」

仲間の一人がそう声をかけながら、非常口を開く。

「わっっぷっ……」

ドアを開けると、そこには頭が4つある巨大な大蛇がいた。

それを見たひとりが叫び声をあげそうになるが、近くにいたやつが慌てて口を押さえたため、事なきを得た。

大蛇は幸いにもこちらに気づいていないようで、このままなら抜け道まで辿り着ける……そう思った時だった。


俺たちの中の一人の男の荷物の中から、けたたましいベルの音が鳴り響いた。

同時に、無線からケンジの声が聞こえてきた。

「よう、俺たちのために、魔物を引き付けてくれよな。」

その瞬間、全てが明らかになった。

ケンジは最初から俺たちを囮にするつもりだったのだ。

協力的に見えた彼の態度は、ただ自分たちが逃げる時間を稼ぐためのものだった。

そして、その音は、当然大蛇にも伝わり、大蛇が飛び掛かってきた。


大蛇が飛び掛かってくるその瞬間、俺たちは直感的にそれが自分たちの力では到底かなわない相手だと悟った。

恐怖と焦りが入り混じる中、俺たちは必死に校舎内に戻ろうと試みたが、非常口にたどり着いたとき、すでにそれは遅かった。

扉は固く施錠されており、窓から中を見ると、ケンジの手の者と思われるクラスメイトがニヤニヤしながらこちらに手を振って去っていった。


「晴香っ!」

俺はそいつらと一緒にいた晴香に大声で助けを求める。

鍵を開けてくれればそれでいいのだ。

しかし晴香は悲しそう異な目で俺を見た後、振り向きもせずに背を向けて走り去っていった。

……嘘だろ?

晴香が……晴香も……裏切るのか……。



絶望が胸を締め付ける。

出口は閉ざされ、大蛇は容赦なく俺たちに迫ってきた。

逃げ場のない状況で、仲間たちは次々と大蛇の攻撃に倒れていく。その光景は耐え難く、心が引き裂かれるような思いに駆られた。


必死に生き延びるために策を考えるが、状況は絶望的だ。

裏切りと恐怖が交錯する中、俺たちはわずかな希望を求め、何とか突破口を見つけ出さなければならなかった。


胸の奥に渦巻く怒りと裏切られた思いを抑えつつ、俺たちは迫り来る危機に立ち向かわなければならなかった。


「ぎゃぁぁぁぁ……死にたくな……。」

俺の目の前で、一緒に来た一人が大蛇に丸のみにされた。

周りを見ると、俺以外に生徒は誰もいない。

ちぎれた手足が転がっているところから、他の4人は皆食い殺されたのだろう。

俺の中の何かがはじけた気がした……。


「いいぜ……やってやるよ。絶対生き延びてやるからなぁ!」

そこから、俺と大蛇の壮絶な戦いが始まった。

ヒロインの春香ちゃんの、まさかの裏切り!

まぁ理由があるんですけどね。

とりあえずは、春香ちゃんは真のヒロインじゃなかった、という事です。

今後、ヒロインの座に返り咲くかどうかは、神のみぞ知る……ですね。


ご意見、ご感想等お待ちしております。

良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。

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