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第二十二話 支配の力

「焦ったよ」

俺は、蜘蛛の糸に絡まれた少女に向かって声をかけた。

芽衣子の従魔「デーモンスパイダー」の眷属が、そばについていてくれたおかげで、気配がなかった襲撃から、身を護ることができ、さらには捕らえることが出来た。


少女は怯えた表情で、わずかに身じろぎするが、絡みつく糸から逃れられない様子だ。


「で、キミは誰?なんでこんなことを?」


俺は彼女に向かって少し身をかがめ、静かに尋問を始める。

彼女の行動が謎めいており、ここで真実を引き出さなければならない。


少女は一瞬目を伏せたが、少しずつ口を開いた。

「……私は、ただ…」


少女の名前は雪と言い、健司に従う者の一人だった。

彼女の怯えた表情からは、何か強制的に命じられていることが伝わってくる。

俺は慎重に質問を続け、雪から徐々に情報を引き出していく。


中でも重要だったのは、健司の能力に関する話だ。

彼の力は特定のエリア内でのみ絶対的で、その地域にいる限り無敵だが、外に出ればその力は消えるということだった。

そして、その「支配地域」を広げるために、健司は多くの者たちを犠牲にし、彼の計画に反対する者たちを強制的に巻き込んでいた。


「健司は、八十島をこの地に呼び寄せるために、徴発を繰り返している……」

雪はそう言って震えた声で続ける。

「私は、その命令に逆らえなかった…けど、もう限界…」

健司は八十島を呼び寄せるために、エリアギリギリのところで、様々な挑発行為を行っていたらしい。

中でも、女の子達に露わな恰好をさせ、それにつられた八十の連中がエリア内に踏み込んできたところで、隠れていた者達が取り囲みボコるのを繰り返しているという。

まるで、美人局だな、と俺は思う。

幸いにも、雪自身は、ユニークスキルのおかげで、被害にはあっていないようだが、数少ない大事な友人たちが被害にあうのを黙って見ているしかできなかったと、涙を浮かべながら呟いた。


ちなみに、雪のユニークスキルは『認識阻害(私に構わないで)』であり、、この力を発揮している間は、誰もが雪の事を気に止めなくなるという。

姿が見えるとか見えないとかに関係なく、誰もが「雪という存在」を認識できなくなるのだ。

ただ、認識できないだけで、その場にいることは変わりなく、広範囲の攻撃を受ければ、当然被害にあうし、影響もうける。さらに言えば強者には効果がない事もある為過信は出来ない。

この辺り、紗良の「隠蔽術」の下位互換と言ったところだろうか?


健司の支配に関しても、一度リーダーと認めてしまったがために、健司から認識されようがされまいが関係なく、健司の支配を受け入れざるを得なかった。

まあ、支配下にありながらも、健司に認識されていないお陰で、被害にあう事が無かっただけでも、スキルの恩恵は受けていたのだと思う。

今回雪が捕らえられたのも、俺の警護に当たっていたデーモンスパイダーが広範囲にトラップの糸を貼っていたお陰だったりする。

そう考えると、意外と使い方が限られる能力なのかもしれない。



雪の話によれば、一度健司の支配を受け入れると、そのエリア内にいる限り彼の命令には逆らえない。しかし、支配エリアから出ると、その影響は急速に薄れていくという。彼女が今まさにその状態で、俺に従って話しているのも、その影響が抜けたためだろう。


実際、雪の表情は先程よりもはるかに穏やかになり、俺に対する態度も随分と柔らかくなっていた。最初は怯えていたが、今は協力的に見える。

健司の支配が解けたことで、彼女は自らの意思を取り戻しているのだ。


「ありがとう、教えてくれて」と俺は雪に言い、彼女の表情にほっとしたものが浮かぶ。

健司の支配の範囲が限られていることがわかった今、この情報は非常に有効だ。

彼のエリアを離れれば、支配された者たちを救い出せる可能性が出てくる。


「まだ他に何か分かることがあれば教えてくれ、どんな些細なことでもいい」


俺は慎重に、しかし確信を持って言葉を続けた。

この新たな情報をどう活かすかが、健司に対抗するための鍵になると感じた。


健司の目的は、この地を自分の思うままの王国として作り上げることだという。

彼の支配を受けた雪が淡々と語るその言葉に、俺は思わず「アホか?」と呟いてしまった。


王国?学生たちを従わせただけで、どうやってまともな生活を成り立たせるつもりだ?産業や経済、政治の運営、そんなものは考えに入っているのか?いや、健司のやり方を見る限り、何も考えていないだろう。


俺はその発想の幼稚さに、頭を抱えたくなる衝動を感じた。

これは単なる子供の我儘じゃないか。

支配欲に取り憑かれ、力で人を従わせることに快感を覚えているのかもしれないが、現実を見ていない。彼の計画は、いずれ破綻する運命にある。


「支配することが目的なんだろうけど、どうやってその後を維持していくつもりなんだ?」

俺は雪に問いかけた。


雪は小さく首を振り、「彼はそんなことを気にしていないみたい。自分が頂点に立てば、それで満足なんだと思う」と答えた。

その言葉を聞いて、俺は健司の無謀さがいっそう明確に感じられた。

彼は王国を作ると言いながら、王国の運営や人々の生活について何も考えていないのだ。


「やれやれ、俺たちが止めなければならない相手はただの力に溺れたガキってことか…」

俺はため息をつきながら、雪から聞いた情報を整理した。

健司は力に依存し、自分の王国を作りたいだけの子供。

その実態は何も考えず、ただ権力を握りたいという歪んだ欲望の塊だ。


「まったく、これで王国を作るなんて冗談じゃない」と俺は自分に言い聞かせるように呟いた。

支配された者たちは不自由で、自由を奪われた生活を強いられている。

しかし、それに対して彼は何も気にしていない。計画なんてないも同然だ。


「健司のエリア外に逃げたらどうなる?」

俺はふと思い出して雪に尋ねた。


「支配の影響が完全に抜ければ…皆、元に戻ると思う。健司の命令が通用しなくなるんです」と雪は不安げな様子で答える。


「それなら…そのエリアをどうにかして破壊できないか?健司の影響がなくなれば、彼の支配も終わるだろう」


俺はそう考えたが、簡単にエリアを突破できるとは思えない。

何かしら強力な守りがあるだろうし、健司自身もその力に依存しているなら、自分のエリアを守るために徹底してくるはずだ。

それに何より、「何がどうなってエリアを形成しているのか?」という事が重要だ。

「エリアから出たら無力になる」という事からしても、健司を中心にエリアが創られているわけじゃないらしい。


「雪、健司の支配エリアに何か弱点はないか?エリアの範囲を狭めたり、崩壊させるような方法があれば教えてほしい」


雪は少し考え込んだ後、ゆっくりと首を振った。

「私にはよくわからないけど…彼は『結界石』と呼ばれる存在を何度も話していました。それが何か関係しているのかもしれません」


「結界石…?」俺はその言葉に引っかかりを覚えた。

ルインが持っていた結界石と何か関係があるのだろうか?


「よし、ありがとう。とりあえず、健司がその結界石とやらをどう使っているのか、調べてみる価値がありそうだな」

俺は決意を新たにし、雪に微笑みかけた。

「君を助け出せてよかった。これからも協力してくれるか?」

雪は戸惑いながらも、少しずつ頷いた。

「…はい。私も、もう健司の支配に戻りたくないから」


俺たちの次の一手は健司のエリアに踏み込むことだ。

彼の支配を崩壊させるための手がかりを掴むには、結界石とその力の源を明らかにしなければならない。

俺は、雪を連れて、拠点にしている場所へと戻ることにした。



雪を連れて戻ると、健吾と昭が口を開けたまま驚き固まっていた。彼らの目には、雪が以前まで自分たちの邪魔をしていた相手であるという認識が浮かんでいる。


「なんでお前がここに?」健吾が言った。表情は混乱と驚きでいっぱいだ。


「あなた達が朱音と響に近づくから」と、雪は平然と告げた。その言葉は、まるで何の躊躇いもないかのようだった。


朱音と響子は、健吾と昭がひそかに思いを寄せていた相手であり、今回の救出ターゲットでもある。雪にとってその二人は親友であり、下手な男が近づくことを許すわけにはいかなかった。だからこそ、健吾と昭に対しては支配されているかどうかに関わらず、敵視していたのだ。


「な、なんだって…?」昭が驚いた表情を隠せない。


「とにかく、二人はあんたたちの気持ちなんか関係なく、私の友達だから」と雪は毅然とした態度で続けた。


俺はこの状況がさらにややこしくなる前に、なんとかその場を収めなければならなかった。「まぁ、二人を救い出すという目的は一緒だから」と俺は間に入って言った。「今はお互いに協力することが大事だ。健吾、昭、雪も信じてあげてほしい。彼女は力によって動かされていたわけじゃないから」


健吾と昭は困惑した表情のまま俺を見つめていたが、雪の真剣な眼差しと俺の言葉に少しずつ理解を示してきた。彼らの中にあった不安や疑念が、少しずつ和らいでいくのを感じた。


「確かに、朱音と響を救うことができれば、彼女もあんたたちも救われるだろう。だから、今は一緒に行動しよう」と俺は強調した。


健吾と昭は互いに目を合わせた後、少しずつ頷いた。「わかった、協力するよ」と健吾が言い、昭も続ける。「朱音と響を助けるためなら、俺たちも頑張る」


雪もその様子を見て、少しだけ表情が柔らかくなった。「じゃあ、計画を立てましょう」と彼女が言うと、俺たちはこれからの行動について話し合い始めた。


健司の支配を打破し、朱音と響を救うための第一歩が、ようやく踏み出される。

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