第二十話 再び1階層へ
「じゃぁ決まりだな?」
俺はそう言って、今までの意見をまとめ上げる。
地上を目指すかどうか?
昼間、美也子とかすみと相談して答えが出なかったことについて、改めて皆に意見を求めてみた。
美也子、かすみ、芽衣子、信也に加えて、新たに加わった、莉子、紗良、万梨阿に亜里沙、そして健吾と昭の6人。俺とルインも合わせて総勢12名がこの場にいる。
地上を目指すべき、と答えたのは、美也子たち、元からいるグループとルインを合わせた5人で、反対したのが、後から合流した6人だ。
美也子たちは今後の事はともかくとして、とりあえず一度は地上をこの目で見たい、という考え。
元々、地上を目指して行動してきたのだから、ある意味仕方がない。
そして、ルインに至っては、ここが異世界だとは、まだ信じ切れず、ダンジョンの外には自分の世界があるかも?少なくとも自分の眼で確かめないと納得できない。最悪、自分一人でも地上を目指すという。
流石に一人で放り出す気はないから、最悪の場合、俺が一緒に行くつもりではあるが……。
対して、後発組6人は、ここに留まる、ということについては一致しているものの、理由にばらつきがある。
まず、莉子は紗良を危険な目に合わせたくない。
この校舎という安全が確保された場所があるなら、無理したくはないという意見。
紗良は莉子の言う事に従うという。
亜里沙は1階層に行きたくない。会いたくないやつにあう危険を冒したくないという理由。
万梨阿も似たような理由だが、それ以上に「働きたくない」らしい。
ここが安全なら、ここで引き籠りたいという。
健吾と昭に関しては、少しだけ事情が違った。
地上に行くためには、健司との争いは避けられないだろう、それが嫌だというのだ。
なんでも、健吾も昭も、好きな女の子が、健司の陣営にいるという。
そして健司は、1階層で自分の地盤を築いてからというもの、やりたい放題で、何人かの女生徒が健司の毒牙にかかっているという。
幸いにも、健吾と昭の好きな子は、地味で目立たないので、二人がいた時は、まだ無事だったようだが、下手に健司を刺激して、その子が毒牙にかかるのは避けたい、とのことだった。
「だったら、その子を連れてこればいいニャ?」
話を聞いたルインが事も無げに言う。
「そんな事……。」
「いや、出来るなら……。」
健吾と昭の顔が苦悩に歪む。
出来る事ならやりたいのだろうが、それだけの力がないと諦めているのだ。
「……それもアリだな。」
俺は少し考えてから、即興で立てた計画を口にする。
「まず、今後どうするにしろ、一度は地上を見ておきたい。その上で、地上にでるのか、ダンジョンに留まるのかを考えたい。」
俺の言葉に美也子たちは頷く。
「勿論、莉子たちに無理に地上に来いという気はないし、俺達が地上に行くことになって、ここに留まりたいものがいるなら、この校舎を置いて行くから使えばいい。」
俺がそういうと、万梨阿が、はっきりとほっとした表情を見せる。
「そして、俺達が地上に行くための障害になりそうなのが、健司だ。そして、その健司の注意を引くために……。」
昭たちから聞いた話から推測するに、健司のスキルは精神操作系……魅了か、催眠化、洗脳か……。下手すれば隷属の可能性もある。
ユニークスキルは強力ではあるが、その力が大きければ大きいほど、何らかの制限がある。
例えば俺の収納だが、収納するモノによっては大きく魔力を使用する。
普段はなんてことないモノではあるが、あの地竜のブレスを収納したとき、ゴッソリと魔力が持ってかれた。
例えば、美也子の治癒の力。
相手に触れなければ効果が発揮せず、程度によってはキスなどの行為で、直接体内へ力を送り込む必要が有る。などなど……。
つまり、健司の力にも何らかの制約があり、健吾や昭がここにいる事からも、皆が皆健司に従っているわけではない。ほかに選択肢がないから従っているだけ、ということは十分に考えられる。
だったら……。
「健吾たちが中心になって、健司のグループから、その女の子を含めた幾人かを引き抜く……悪いけど、多少は目立ってもらうよ。その隙をついて、俺達が地上へ出る。」
俺が考えたその案をもとに、かすみと信也、そして莉子が中心になって作戦を組み立てていく。
その計画の中心になるはずの健吾と昭が、置いてけぼりなのは、少し不安をさそうけどね。
最初は胡乱気に見ていた亜里沙や万梨阿までもが、乗り気になってきて、いつの間にか、白熱した戦略会議になり、夜通し話し続けた。
その結果……。
「じゃぁ、まとめるぞ。」
俺は眠い目をこすりながら黒板にまとめを書きだす。
まずは情報の収集。
これは1階層全体の情報……モンスターや罠だけでなく、健司たちのグループの状況の詳細と、他の二つのグループの状況、そして、それらのグループに所属していない、莉子達のような野良のグループがいないかどうかなど。
この情報は、この計画が次の段階へ進むために必要な事なので、多少時間をかけても、しっかりと集めたい。
その次に、莉子たちのボス討伐。
これはルインから聞いたのだが、各階層にいるボスを1回は倒さないと次のフロアに行けないらしい。
ただし、これは1階層から2階層、2階層から3階層へと進む場合で、2階層から1階層へと、いったように逆に進む場合は、ボスを倒さなくても大丈夫だとのこと。
だから、健司たちも1階層へ行くことが出来たのだろう……かなりの犠牲を出したようだが。
俺たちは1階層に行くために一度ボスを倒しているから、俺達と一緒に居た莉子達も2階層へ来れたが、俺達がいなくなったら、莉子たちは、一度でも1階層に戻ってしまえば、ボスを倒さない限り、2階層へ戻ってこれないことになる。
今回の作戦では、バラバラに行動する必要が有るので、莉子たちだけでも1階層と行き来できるように、ボスを倒していく必要が有る。
なので、計画の第一歩としては莉子達がボストロールを倒せるようになるためのレベルアップという事になった。
「という事で、3チームに分ける。」
まず、莉子、紗良、健吾、昭、信也、それと芽衣子の、6人が1階層へ先行偵察に向かってもらう。
紗良の隠密能力に、信也の五感強化、そして、芽衣子の従魔たちは、偵察、情報収集に最も向いているからだ。
情報を集め終えたらそのまま、人質?奪取作戦に移るので、昭と健吾は、その案内人みたいなものだ。莉子は、まぁ、紗良の護衛と言ったところか。
途中戦闘もあるかもしれないので、戦闘職として期待はしている。
次に、万梨阿、亜里沙、美也子、かすみの4人は、この2階層で新たなるメンバーの受け入れ準備。
校舎を覆う認識阻害結界の維持もあるし、後者をこのままにしておく以上、誰かが残らなければならない、と言ったら、真っ先に万梨阿が名乗りを上げた。
まぁ、留守番組には色々とやっておいてもらいたいこともあるので、自ら志願してくれるのはありがたい。
かすみは、状況次第で信也たちに合流してもらうこともあるので、どちらかと言えば遊撃ポジションになる。
そして、俺とルインは、途中まで信也たちと行動を共にし、信也たちが健司組から引き抜きをかけるタイミングで、隙を見て地上へと上がる。
その後の事は地上を見てから考える、という段取りだった。
「じゃぁ、とりあえずはボストロールでも狩りに行くか。」
俺はまとめ上げた後、そう言って締めくくった。
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