第十六話 新たな力
「にゃんだぁ、ブレイクぅ!!」
ルインの鋭い爪が振り下ろされると同時に、雷が空から轟き落ち、離れた場所から突進してきたワイルドボアが一瞬で打ち倒される。
これがルインの新しい力だ。彼女自身もまだ完全には掌握していないが、その潜在能力は日に日に増しているように感じる。
俺たちは次の階層に進むための通路を捜していたが、同時にお互いの連携を強化するため、魔物狩りも並行して行っていた。
そして、その狩りの中で気付いたのだ。
ルインはただの戦士ではない、と。その獣の本能とスキルという力が、さらに強力な戦闘スタイルを作り上げる筈だ、と。
だが、ルインは己のスキルを十全には使いこなしていなかった。
ルインのスキルは『雷操術(猫)』。(猫)というのがよくわからないが、雷属性の魔術が使えるのは間違いない。
しかし、ルインは、普段は隠している爪に、雷を纏わせて切裂く、という戦闘スタイルにしかそのスキルを使っていなかった。
というより、他の使い方があるとは思ってもみなかったようだ。
まぁ、今のままでも十分強いのだが、それ以上に強化できるのなら、やらない手はない、という事で、俺と信也、そして芽衣子ちゃんによる、「ファンタジーにおける雷術」なるものの講釈をルインに施した。
最近知ったのだが、芽衣子ちゃんは俺以上にコアなゲーマーでラノベ読者だった。
特に異世界ものは大好物で、その知識量は半端ではない。
時々「このにわかがっ!!」という目で見られ、罵られこともしばしばあったりする。
そういうわけで俺達(特に芽衣子ちゃんの)熱い指導のおかげで、ルインは従来使っていた『雷爪』以外に、雷をその身に纏わせることで、従来の三倍以上の機動力を得る『身体強化:雷装』と、離れた任意の場所に雷を落とす、遠距離攻撃『落雷』のスキルを覚えた。
「すごいな、ルイン。あの力はどんな感じだ?」
俺が彼女に尋ねると、ルインは首を傾げ、少し照れたように尻尾を揺らしながら答えた。
「わからにゃいけど、体が勝手に動く感じ…雷が降っていた時は、これにゃっ!て感じで、にゃんだか心地いいにゃ。」
彼女の言葉に俺は考え込む。
新たな力はいいとして、それを使って快感を覚える……。
新たな力がそうさせるのか、それとも彼女自身が秘めていた性癖が開花したのか…。
……うん、とりあえず問題なし。
という事で深く考えるのをやめる。
その後も俺達は、互いの連携に注意しながら、探索を続けた。
◇
「ふむ……悩ましいな。」
俺は肉棒を眺めながらしばし悩み、なやんだ末の回答を肉棒に反映させる。
先程ルインから回収してきた肉棒。それにはルインのスキルがコピーされているのだが、肉棒に保持できるスキルは限られている。
必要であればコピーし直せばいいのだが、同一人物からのコピーには24時間のクールタイムが発生するため、決してすぐコピーし直すという事が出来ない。
なやんだ末に決めたのが、以下の通り。
名称:「肉棒」 レーティング:USR
所持者 彼方 ※ユニークアイテムにつき、スキルコピー時以外、所持者以外に使用はできない。
効果1 スキルコピー 使用したもののスキルをコピーすることが出来る。
効果2 形状変化 ①スキルコピー時、使用しやすい形に変化する。 ②スキルに応じた使用しやすい形態に変化する。
効果3 スキル保持 4/4 コピーしたスキルを保持しておける。現状最大4個
①エリアヒール ②剣術 ③雷纏 ④にゃんだぁブレイク
結構使っていたせいか、熟練度が上がり、保持できる数が増えたのは僥倖だった。
まず、エリアヒールは外せない。
美也子以外に回復役がいないというのは、かなり怖いことだ。
一応少量とはいえ、ポーションがあるが、使えば当然無くなるため、いざという時の為に残しておきたい。
だったら休めば回復するスキルでの回復はかなり貴重だ。
次に剣術。
これはどうしようかと悩んだが、攻撃の手数はあった方がいい。、という事で残した。
そして雷纏い。
ルインが爪に雷を纏わせるように、武器に雷を纏わせる。そして「雷纏い」を使うためには、武器が必要になるため、剣術を遺した理由だったりする。
最後に、にゃんだぁブレイク。
言わずと知れた遠距離魔法。これは文句なく必要だ。残さないという選択肢はない。
俺の攻撃は荷が広がった結果、俺達のパーティーのスタイルは以下のようになった。
先頭にルインとかすみ。
ルインが気配探知を使いながら進む。
敵が現れたら、かすみと二人で前衛を担当。
中央を美也子、それを囲むように俺と芽衣子ちゃん。
そして殿を信也が担当する。
信也が背後を監視してくれることで、バックアタックの危険が少なくなり、俺達の安全性が増したのも、ルインが加入してくれたおかげと言える。
芽衣子ちゃんのテイムした魔物の存在も、俺達の安全度を上げてくれていることを忘れてはいけない。
ライトニングホーンの「うささ」。
その角から放たれる雷により、相手をマヒさせ、時にはその命を奪う。敵にすれば厄介だが、¥味方にいれば頼もしい存在だ。
ただ、ルインの加入により、自分の存在が脅かされ焦っている……かも知れない。
そして、桜ネズミの「サクラ」。
彼女(芽衣子ちゃんによればメスらしい)は、普段芽衣子ちゃんの頭か肩に乗っていて、魔法障壁で芽衣子ちゃんの安全を守っている。
彼女の力はそれだけでなく、隠蔽や罠探知など、斥候能力に優れている。
実際サクラのおかげで未然に防げた罠の多い事か……。
うささとサクラがいれば、芽衣子ちゃんと美也子の守りは任せられるから、俺も安心して攻撃に加わることが出来る。
とはいっても、実際には、俺はにゃんだ―ブレイクで味方の援護に回ることになるのが多くなりそうだけどな。
そんな感じで、パーティの戦力が上がった俺達の探索は、サクサクと進んだ。
1階層へ続く階段は、実は結構早くに見つけていた。
2階層で他の生徒たちを見かけなかったことからも、近くに上への通路があるだろうと予測はつけていたが、元々、校舎があった場所の正門から出て近くにあった事には少し驚く。
俺は、裏の抜け道のどれかを健司は選んだのだろうと思い込んでいたからだ。
健司が正門前を通った証拠に、その周りに生徒だったと思われる遺体……正確にはその残骸……が多数残されていたからだ。
無残にも食い荒らされ、その場には、本当に残骸……骨の欠片とか、食べるのに邪魔だったと思われる衣服とか……しか残されていなかったのは、ある意味幸いだった。
形がもっと残っていたら、俺達もさすがに平然としてはいられなかっただろう。
その遺された残骸の中に、俺のクラスメイトの者と思われる遺品があった事から、健司たちがここを通って行ったことは確信できた。
ただ、これだけの残骸……健司はいったい何人を犠牲にしたんだ、と考えると、ふつふつと怒りが湧いてくる。
俺はその怒りを落ち着かせるためにも、また、今後の事を考えて、戦力アップを図るためにも、まだ、確認していない2階層の部分をまわることを提案した。
ひょっとしたら、別の階段が見つかるかもしれないことも期待して。
結局、2階層未到達部分のマップを埋めるのに10日の時間を要したが、上への階段は、最初に見つけたものだけだった。
犠牲の大小はともかくとして、あそこを通らなくては、上に行けなかった都いう事だけは理解した。
「どうするニャ?」
考え込む俺にルインが聞いてくる。
上への階段の前にはトロールが徘徊している。
力は強く頑丈そうではあるが、動きは鈍め。
俺たち6人であれば、隙をついてすり抜けることは可能だが……実際、健司たちも、何人か犠牲にして抜けていったのだろう。
「倒すか。」
時間はかかるだろうが、今の俺達なら、犠牲を出さずに倒せるという確信がある。
「この後、2階層に戻ってくることも考えると、ここの邪魔ものは排除していきたい。」
俺の言葉に、みんなが頷いてくれる。
後は、どう倒すか?と、作戦を練るだけだ。
俺はみんなに考えていることを話すのだった。
次回か次々回に、因縁の再会をする……かもしれませんね。
私の中では、健司との再会、春香との再会などを予定しているのですが、こういうときに私の予定どおりになった試しがないので(--;
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